落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「代役」。
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コロナのせいもあり今エンタメ界は代役・代演が頻発しています。
1月某日。「急ですいません! 明後日のヨル空いてませんか!?」と某落語会の舞台袖で某イベンターさんから声を掛けられました。「練馬の落語会なんですが、陽性者が出てしまってですね……」「どなたですか?」「ナイツのお二人なんですけど」……無理に決まってんだろうが。私一人でナイツの代役がつとまるか!? 「○○師匠も空いてるみたいだから、二人で……」「……漫才やるの?」「出来ない?」「出来るわけないでしょ!」。まぁ、それだけ先方も慌てていたのでしょう。結局、ナイツの代役は奇跡的にスケジュールの空いていたテツandトモさんになったそうです。
数日後、これまた某落語会主催者さんから早朝にメール。「本日の落語会、K師匠が発熱し出演できません。急なんですが一之輔師匠に二席お願い出来ませんか?」「もちろんですよー」。困った時はお互い様。三人会で元々私がトリの予定でしたが、前座、私(本来K師匠)、春風亭昇太師匠、休憩、私……というプログラムになりました。「一之輔くんの独演会に僕がゲストに来たみたいだねえ」と昇太師匠。昇太師匠もコロナから回復して復帰戦だそう。「ところでギャラは2倍なの?」と前のめりな師匠。「まだ分かりません……だといいですけどねぇ(ニヤリ)」。前座の後に高座に上がり「K兄さんが発熱しまして、急遽私が二席やることになりまして……」と言うとお客様の数名が「えーーーー」。オイ。事前に言ってないのかよ!? 急だからってせめてロビーにその旨を書いた貼り紙でもしときゃいいじゃないの。「K兄さんがやる予定だった『木乃伊取り』、私は出来ませんので、違う噺でご勘弁……」「えーー(半笑い)」。うるさーいっ!! なんだ、その「出来ないの?」みたいな反応は!? 後日、K兄さんから最高級の牛肉が届きました。お互い様なのに申し訳ない。ありがたく頂戴しましたが……ギャラは2倍ではなかったです。悔しいから今年中に『木乃伊取り』を覚えよう。