■顧客の声が栄養になる
リーガルフォースを救ってくれたのは、法務部門にテクノロジーを持ち込むことを切望している顧客企業だった。彼らはまだ不完全なプロダクトを見捨てることなく、「もっとこうした方がいい」「こんな機能があれば売れるはずだ」と親身に相談に乗ってくれた。将来の顧客の生の声は生まれたての製品を育てる、何よりの栄養になった。
舟木のもくろみ通り、レビューAIは失敗から学びつつ、順調に育っていった。初めは「使うとかえって時間がかかる」代物だったが、いつしか「使うと生産性が上がる」ツールになり、法務現場の実用に耐えられるレベルになっていった。
こうなると顧客が殺到する。19年4月に正式にサービスを始めた時の顧客は30社だったが、8月には100社、21年7月には1千社を突破。同年12月時点では1500社に膨らんだ。21年には投資ファンドのWiLなどを引受先とした第三者割当増資で約27億円を調達。日本政策金融公庫と三菱UFJ銀行の協調融資で約3億円も調達した。
18年3月には外資系コンサルタント会社のマッキンゼーから川戸崇志(後にCOO)が加わり、経営陣は厚みを増した。
AIが人間の仕事を奪うという議論に対して、小笠原はこう反論する。
「我々が法務担当者や弁護士の仕事を奪うわけではありません。リーガルフォースというパワースーツを着てもらい、契約に関わる高度な交渉や判断に集中してもらう。そうなればホワイトカラーの生産性が上がります」
日本や世界の大企業で基幹業務を紙と鉛筆でやっているところはないだろう。大半は独SAPなどのERP(エンタープライズ・リソース・プランニング)ソフトを使っている。だが法務の世界はいまだに紙と鉛筆だ。
「SAPと同じように『法務部ならリーガルフォース使ってるよね』といわれるようなポジションを確立したい。手始めは日本企業、次に海外進出した日本企業、いずれは世界中の企業を顧客にしたい」と角田は言う。
「見落としが減った」「レビュー時間が3分の1、2分の1に減った」。そんな顧客の声が角田らの背中を押す。
(敬称略)(文/ジャーナリスト・大西康之)
※AERA 2022年3月28日号より抜粋