政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。
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ウクライナ侵攻で「プーチンをつぶせば解決する」というのは短絡的な考えでしょう。帝政ロシアの崩壊からレーニン、スターリン、ゴルバチョフからエリツィン。ソ連が崩壊して現れたのがプーチンです。ロシアという国は、専制支配が倒れた後に出てくるシナリオは前よりむしろ悪くなるという歴史を繰り返しています。
プーチン大統領が失脚し、たとえそこで戦争が終わっても、ロシア国内は内戦に反転する可能性もあります。世界最大の核保有国でそういう事態が起きたら、まさに悪夢の始まりです。米国も経済のダメージを恐れていて、ロシアがデフォルトにならないよう国債の利払いのドル決済を認めました。その一方で、ウクライナ頑張れとエールを送っているのです。
問題はウクライナ一国やゼレンスキー大統領、そしてプーチン大統領だけで決められることではなくなっていることです。これ以上、人の命が奪われないためには、一刻も早く停戦にもっていくような仲介の労を取らないといけません。にもかかわらず、そういうことに総力戦にならずに「核保有論」などに政治の焦点が行くこと自体、強い憤りを感じざるを得ません。