AERA 2023年1月23日号より
AERA 2023年1月23日号より

 恋人もでき、やがては結婚、と漠然と考えていた。そんなとき、当時70代の父親がアルツハイマー型認知症と診断された。男性が35歳の時だ。心の余裕がなくなったことで恋人と会う時間は減り、次第に連絡が来なくなり、自然消滅した。それから10年近く。いい雰囲気になった相手は何人かいたが、次の一歩を踏み出せなかった。

「付き合うとなると、その先に結婚がある。認知症の親がいる自分でいいのかなと思うと、躊躇してしまう。さらに正直な気持ちを言うと、認知症の親を持つ自分を否定されるのが怖い」

 内閣府の「男女共同参画白書」によると、20年の50歳時の未婚割合(生涯未婚率)は男性が28.3%、女性が17.8%。1970年がそれぞれ1.7%、3. 3%だったことを考えると驚きの数字だ。

「でも、ほぼ全員が結婚できる状況も異常だったと思います」

 こう話すのは、独身研究家の荒川和久さんだ。

「お見合いや職場結婚が衰退し、恋愛の自己責任化が進んだ社会構造の変化の中では、いつの時代も一定数存在する『恋愛弱者』がさらに結婚できにくくなっています。結婚についての価値観や恋愛の能力が昔と変わったわけではなく、環境の変化に翻弄され続けているんです」

■幸せの先に結婚がある

 よく言われる「進む晩婚化」も、現実とは違うと話す。

「20代の結婚が減り、後ろにずれて35歳以上が増えているわけではない。そこも減っているんです。そしてある程度の年齢になり『私は選択的に結婚しないんです』とする人の中には、それまで『したくても不本意ながらできなかった』ことを認めるのがつらくて、認知不協和で理屈付けしている人も少なくないと私は見ています」

 ただたとえ後付けであっても、できないことを引きずらず「結婚という選択肢をいったん、自分の中から除外してみる」ことは、その人の幸せにとって大事なポイントだと荒川さんは言う。

「結婚したら幸せになれるはず。これって呪いの言葉。結婚できなかったら不幸なままなんて思いに囚われていたら、人生つまらない。自分が自分を幸せにできる人間じゃなければ、他人も幸せにできません。まずは自分が幸せになること。結婚はその先にあるものだと思います」

(編集部・小長光哲郎、ライター・羽根田真智)

AERA 2023年1月23日号より抜粋

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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