台湾の蔡英文総統

 具体的にはこうだ。24年には台湾総統選挙が実施される。そこで独立派が勢いづけば、台湾内で混乱が生じる。そこで、<中国が混乱を鎮圧するという名目で軍事介入する>という。香港で起きた中国による民主派への弾圧が、台湾でも起きるということだ。前出の外務省関係者は言う。

「SNSを活用して国際世論を味方につけたゼレンスキー氏に、プーチン氏は情報戦で完敗した。中国はこれを教訓と捉え、台湾侵攻の時は綿密な情報作戦を展開するはず」

 米国でも警戒が強まっている。

 インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官(当時)は昨年3月、米国議会上院軍事委員会の公聴会で、中国の動きに警告を発した。

「台湾(統一)は野望の一つであり、今後6年以内(27年まで)に脅威が顕在化する」

 米国は、1979年に制定した台湾関係法で、台湾防衛のための軍事行動の権限を大統領に与えている。ただ、台湾防衛は米国の義務ではなく、米国政府は中国が侵攻した時の具体的な対応について明確にはしていない。

 一方、ウクライナ問題では、バイデン氏は米軍の派兵を早い段階から否定していた。これが、プーチン氏の強硬姿勢を招いたとの批判もある。

 それを受け、ワシントンでは台湾政策に変化を求める声が出ているという。前出の小谷氏は言う。

「台湾が侵攻された際の米国の対応を明言しないことは、中台双方に誤ったメッセージを送らない『戦略的あいまいさ』と言われてきました。それも最近では変化しています。まだ主流派ではないものの、米国有識者の間では、台湾有事の際に米国が反撃することを明確にすべきとの意見が強まっています」

 台湾を支援する法案も次々に成立している。米国の上下院が可決した22年度の歳出法案では、行政機関に対し、台湾の領土について不正確な地図の作製や購入を禁じた。昨年末には、台湾との軍事演習を促す国防権限法も成立させている。

 バイデン氏は昨年8月、NATO(北大西洋条約機構)の同盟国への防衛義務に触れながら、「台湾も同様だ」と述べた。言い間違えとの指摘がある一方で、確信犯的に語っているとの見方もある。

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