さまざまな役柄を巧みに演じ分け、実力派俳優として知られるアダム・ドライバー。最新作「アネット」でミュージカル映画に挑む。AERA 2022年4月4日号から。
* * *
アダム・ドライバーがカメレオン俳優であるのは、誰もが認めるところだ。「スター・ウォーズ」シリーズのカイロ・レン役をはじめ、「最後の決闘裁判」のような悪役から、「ハウス・オブ・グッチ」のグッチ家の御曹司、「マリッジ・ストーリー」やテレビドラマシリーズ「Girls/ガールズ」のようなコメディーまで、幅広い領域にわたって変貌を繰り返してきた。
■スパークスが原案
そんな彼の最新主演作「アネット」は、フランスの鬼才レオス・カラックス監督が初めて手がけたミュージカル映画だ。アメリカのロックバンド、スパークスの原案、作曲による、伝統的なミュージカルとは趣を異にするロックオペラ。ドライバーは自らプロデュースも買って出るほどに惚(ほ)れ込み、構想7年にわたるプロジェクトに多忙なスケジュールを調整しながら関わり、完成にこぎ着けた。その情熱の源泉について彼はこう語る。
「僕はスパークスのファンだし、レオスの映画が大好きだったから、こんな機会を逃す手はないと興奮した。とてもチャレンジングな企画に思えたけれど、唯一無二の経験になるだろうと。レオスの映画は観客に肉体的な体験を与えてくれる。映像は力強く、そのなかに生きる俳優たちはとても生き生きと、魅力的に見える。彼はニューヨークまで会いに来てくれたけれど、会う前から僕のなかで返事は決まっていた」
ドライバーが演じるのは辛辣(しんらつ)なユーモアで観客を笑わせる人気スタンダップ・コメディアンのヘンリー。シニカルと評判だったものの、オペラ歌手のアンに恋をし、2人は結ばれて娘のアネットを授かる。だがアネットに天才的な歌唱力があったことで、ヘンリーは娘の才能を搾取するようになり、自堕落に失墜していく。まるで暗い運命を定められたギリシャ神話やシェークスピアの戯曲を彷彿(ほうふつ)させる。
「この父と娘の関係はとても興味深いし、この映画にはさまざまなテーマが込められている。愛憎、自己破壊、親子関係、贖罪(しょくざい)。でもこの映画は答えを与えるものじゃない。観る人によって答えも異なるかもしれないし、それぞれが自分にもっとも響くところに共感できると思う」