店の扉を開けると懐かしさを感じる醤油の匂いが店内に広がっている。壁には漫画家のサインがずらり。中華料理店「松葉」は、「トキワ荘」の漫画家たちが通ったことで知られる。
「病気をしていたという話も聞いていなかったので驚きました」
そう語るのは同店の店主、山本麗華さん。訃報が流れた日は普段よりも多くのお客さんが店に来たという。「皆さんに愛されていたんだなと実感しました」
「忍者ハットリくん」や「怪物くん」、「笑ゥせぇるすまん」などの作品で知られる漫画家、藤子不二雄(A)(本名・安孫子素雄[あびこもとお])さんが今月7日、川崎市内の自宅で亡くなった。88歳だった。
1951年に小学校の同級生、故・藤子・F・不二雄(本名・藤本弘)さんとコンビを組み漫画家デビュー。64年には「オバケのQ太郎」の連載を開始し、大ヒットを記録する。その後も、数々の人気作品を世に送り出してきた。2021年にはデビュー70年を迎えたばかりだった。
ホラー漫画家の伊藤潤二さんは、Twitterで哀悼の意を表した。伊藤さんは言う。
「幼少期から作品を愛読していたので、『ついにこの時が来たか』と思いました。最近は一時代を築いた先生方が亡くなることが多く寂しいです」
出版社の謝恩会で一度だけ藤子さんに会ったことがあるという。
「20年くらい前ですかね。私は『テレビで見た先生がいる!』とミーハー丸出しで興奮していました(笑)。先生の醸し出すオーラに触れ、とても感動しましたね。長くお話することは叶わなかったのですが、ツーショットの写真を撮ってもらいました。快く引き受けてくれ、優しく接していただいた記憶があります」
そんな伊藤さんが「大好きな作品」としてあげるのが、ホラー漫画の「魔太郎がくる!!」だ。同作は、いじめられっ子の主人公、浦見魔太郎が、超能力やオカルトアイテムを使っていじめっ子に復讐を果たすという物語。