今やゴーストタウンと化したブチャに支援物資を届けるため、バルダブッシュさんは現在キーウにある住宅を友人3人と共に借り、5匹の犬と一緒に過ごしている。キーウとブチャの間の道路には焦げた戦車の瓦礫が散乱し、コンクリートに大きな穴が開いているため、物資を届けるのに急いでも片道2時間はかかる。
■横たわる遺体の下にも地雷
彼女はロシア軍と戦うため、ウクライナ軍に志願した。
「軍経験のある人、男性から先に前線に送るから」と言われ、今は「順番が来たらすぐ連絡するからそれまで待機するように」と告げられた。
元警察官の彼女はマシンガンもライフルも操作できるが、戦車やミサイルの扱いには慣れていない。呼ばれたら5分以内に戦場に行けるように「スーツケースのパッキングはもう済んでいる」と語る。妹のストーンさんは「姉が東部の激戦地に派遣されるのが一番怖い」と心配し、米国からアプリで姉の現在位置を毎日確認している。
軍のリザーブ要員としてバルダブッシュさんは街中至る所に埋められた地雷を探し、特殊部隊に連絡し、除去してもらう作業も率先して行っている。
「ロシア兵は道端に横たわるウクライナ市民の死体の下にも地雷を仕込む。死体回収する人を身体ごと吹っ飛ばすのが狙い。それを避けるために、隠された地雷をくまなく探すのが日課」(バルダブッシュさん)
■私がいるべき場所はウクライナ
現在、キーウ付近にはロシア兵士の姿はないという。支援作業の後、現地時間の深夜に電話取材に答えてくれたバルダブッシュさんは、こう語った。
「私は単純な人間。ウクライナを自分で守りたいだけ。妹は泣いて心配するけど、私自身は不思議と恐怖は感じない。この国を心の底から愛しているんだと、今回、自分でもはっきり気づいたから。以前はイタリアやドイツに住むのもいいかもと思っていたけど、私がいるべき場所はウクライナ。この戦いに勝利したらブチャの街で皆とピクニックがしたい。近所中の人全員をハグしたい。そのために、私はいま生きている」
(ジャーナリスト・長野美穂)
※AERAオンライン限定記事