警察官としてキーウで5年間勤務した経験を持つアイリーナ・バルダブッシュさん(写真/バルダブッシュさん&ストーンさん)
警察官としてキーウで5年間勤務した経験を持つアイリーナ・バルダブッシュさん(写真/バルダブッシュさん&ストーンさん)
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「私の身体中の血液は、今、グツグツと煮えたぎっている。私の愛する街ブチャの子どもや女性、老人を惨殺したロシア軍と戦うために母国に戻り、ウクライナ軍に志願した」

【写真】妹のストーンさんと笑顔で写るバルダブッシュさん

 そう電話で語るのは、キーウ郊外の街、ブチャ在住の元警察官の女性、アイリーナ・バルダブッシュさん(36)だ。

 ウクライナの首都キーウから約30キロ郊外にある街ブチャでは、道端の至る所で約400以上の死体が発見され「ブチャの虐殺」として世界を震撼させたばかりだ。なかには自転車に乗ったまま撃たれて殺された市民もいる。

■戦車に踏み潰されそうに

 バルダブッシュさんは、ロシア軍の爆撃が始まった2月24日から2日間は、ブチャにある自宅アパートの地下室に住民と共に隠れ、爆撃3日目にアパートを出て、近所の住民たちと共に車で脱出した。妊娠8カ月の友人女性も彼女の車に同乗し一緒に避難した。

 途中の道路でロシアの戦車がバルダブッシュさんの車を踏みつぶそうとしたが間一髪で何とかよけた。その後15時間かかってポーランドへ。彼女はそこから妹が住む米国ネバダ州のラスベガスに飛び、無事避難していた。

 だが約1カ月後の3月28日に彼女はひとりで米国を発ち、ウクライナに戻った。

ウクライナの警官になるには精神鑑定や体力、知力などの検査をパスする必要がある。合格を喜ぶ妹さんと共に撮影(写真/バルダブッシュさん&ストーンさん)
ウクライナの警官になるには精神鑑定や体力、知力などの検査をパスする必要がある。合格を喜ぶ妹さんと共に撮影(写真/バルダブッシュさん&ストーンさん)

 バルダブッシュさんの妹、クセニア・ストーンさん(28)はこう語る。

「女性たちがレイプされて拷問され、市民が殺されている戦時下の街に戻るなんて狂気の沙汰。危なすぎるからやめてと何度も泣きながら説得したけど、ブチャの住民たちと連絡を取っていた姉は、街の悲惨な状況を報道される以前からすでに知っており、街を自分の手で守るのだと決心して戻ってしまった」

 ウクライナに新政権が発足した2014年に、ウクライナ警察のキーウ本部の警察官となり、5年ほど勤務したバルダブッシュさん。そんな彼女の性格を妹のストーンさんはこう言う。

「姉は幼い頃から正義感が強かった。いじめっ子にも敢然と立ち向かい、相手が間違っていればはっきりと指摘する。争い事を極力避けたい私とは正反対のタイプ」

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長野美穂

長野美穂

ロサンゼルスの米インベスターズ・ビジネス・デイリー紙で記者として約5年間勤務し、自動車、バイオテクノロジー、製薬業界などを担当した後に独立。ミシガン州の地元新聞社で勤務の際には、中絶問題の記事でミシガン・プレス協会のフィーチャー記事賞を受賞。

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