お笑い芸人の基本的な仕事は、観客の前で漫才やコントなどのネタを演じることだ。しかし、テレビの仕事が増えてタレントとして売れっ子になると、ネタをほとんどやらなくなってしまう場合が多い。
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特に、テレビで冠番組をたくさん持っているような人気芸人に上り詰めてしまうと、世間の大半の人がその芸人をテレビタレントとして認識することになり、ネタをやる人だというイメージが薄れてしまう。そんな状況では期待が高まってハードルが上がっているので、ネタをやりづらい。そんなわけで、彼らはますますネタから離れていってしまうことになる。
ダウンタウンもそんな「いつのまにかネタをやらなくなった芸人」の典型だった。ダウンタウンに漫才やコントをやってほしいという潜在的なニーズはずっとあったはずだが、彼らは沈黙を保っていた。
ところが、ここへ来て、ダウンタウンが突如その封印を解いた。昨年放送の『キングオブコントの会』では、松本人志が久しぶりにテレビで新作コントを披露し、今年4月3日にはコンビとしてなんばグランド花月の舞台に立ち、30分超の長尺漫才を演じた。さらに、4月9日の『キングオブコントの会2022』では、昨年に続いて松本が作ったコントが放送された。
長年の供給不足で「ダウンタウンのネタ」の株価が天井知らずで高騰していたところに、漫才とコントの新ネタが立て続けに世に放たれた。お笑い市場は歓喜の声に満ちている。
長年のファンとして何より嬉しかったのは、新作の漫才とコントのどちらにも相変わらずの松本らしさのようなものがはっきり感じられたことだ。しかも、それが決して古臭くなっておらず、今の時代に見ても楽しめる作品に仕上がっていたことに感銘を受けた。
これらの漫才とコントを並べて比較してみると、松本がそれぞれのネタで表現したいことの微妙な違いが浮き彫りになる。
漫才は、観客との相互作用を前提にして成り立っている「生もの」である。漫才は、芸人が素の自分自身として舞台に立って話をするものなので、観客とやり取りをしたり、場合によっては客イジリをしたりすることもある。