次の駅が近づき、靴下に気づかないまま親子が降りようとドア前に立ったその時。「靴下、落ちましたよ!」と拾い上げ、手渡す私。軽いやりとりの後、どうかすると親御さんは「よかったねー。拾ってくれてありがとうだねー」と口をきけるはずもない赤ちゃんに謝意を促します。私がマスク越しに微笑み返すと、赤ちゃんは「こいつ、ずっと見てたんだよ! ねぇ、騙されちゃダメだよ! こいつ、靴下が落ちるの楽しんでたよ!」と訴えるかのように、私から顔を背けることでしょう。親は一言「あらあら……この子、いま『人見知り』なんです」私「『人見知り』かぁー」赤ちゃん「……(キモいんだよ、バカ)」
この季節、上手くするとこんなやりとりが3回くらい味わえます。赤ちゃんの春が来た!
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。新刊書籍『人生のBGMはラジオがちょうどいい』(双葉社)が発売。ぜひご一読を!
※週刊朝日 2022年4月22日号