リコー/耳の不自由な社員も交えた打ち合わせ。集音マイクを設置しておけば、聴覚障害者向け音声認識アプリ「Pekoe」がパソコン上でリアルタイムに会話を文字に変換してくれる(写真:リコー提供)
リコー/耳の不自由な社員も交えた打ち合わせ。集音マイクを設置しておけば、聴覚障害者向け音声認識アプリ「Pekoe」がパソコン上でリアルタイムに会話を文字に変換してくれる(写真:リコー提供)
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 性別や国籍、価値観などの違いを尊重し、個性や才能を生かして働く「ダイバーシティー&インクルージョン」(D&I)の職場づくり。「社会的責任」から、必須の企業戦略になりつつある。AERA 2022年4月25日号の記事から紹介する。

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 日本経済団体連合会(経団連)が2020年8~9月に行ったアンケート(回答社数273社)によると、ポストコロナ時代に対応する上で、D&I推進が「重要」と回答した企業は96%だった。注目されるのは、D&I推進による経営効果への期待値だ。「優秀な人材の維持・獲得」(66%)、「プロダクト・イノベーション」(48%)、「事業環境変化に対する感応度、危機対応力の向上」(46%)と経営上のメリットと直結して捉える傾向が浮かぶ。

■耳の不自由な社員の意見、イノベーションを生んだ

 D&Iを「実利」につなげている企業の実践例を紹介しよう。

 オンライン会議の参加者の発言が、チャットのようにリアルタイムでパソコン画面上に文字化されていく。

 リコーが4月から法人向け販売を始めた自動文字起こしアプリ「toruno」(トルノ)の便利さには驚かされた。

 すべてのオンライン会議システムに対応し、テキスト化も録画も同時にセットできる。このサービスは口コミで話題となり、昨年9月にモニター企業を募ったところ、想定の3倍もの応募があった。

 特筆すべきはこの商品が、耳の不自由な社員のために開発した自動文字起こし技術から派生したサービスであるという点だ。

 TRIBUS(トライバス)推進室の岩田佳子さんはもともと、電子黒板上で発言内容が字幕表示される会議録システムを開発していた。

 社内の技術発表の場で、「この技術があれば、耳の不自由な社員が助かる」との意見が出たのがきっかけで、19年から社内の約30人の聴覚に障害がある同僚へのヒアリングを始めた。

「耳が不自由な人たちの希望は、『ディスカッションがしたい』ということでした。会議中、タイピングをしてもらえない場合は、『後で議事録を見ておいて』と言われます。そうなると、置いてけぼり感があるんです」(岩田さん)

 こうした声に寄り添い、岩田さんが開発した聴覚障害者向け音声認識アプリ「Pekoe」(ペコ)は、発言が瞬時に文字起こしされるだけでなく、テキストの誤変換を参加者間で修正し合える機能や、会話中のテキストに絵文字を表示できるコミュニケーションツールも実装。オンライン会議が常態化したコロナ禍で不可欠なツールになった。

 Pekoeに注目したのは聴覚障害者だけではなかった。普遍的なニーズがあると考えた開発担当者から「すべてのオフィスワーカー向けに商品化したい」との声が上がる。それが先に紹介したtorunoだ。

 障害者向けサービスだけだとビジネス展開は難しい。だが、同社は、このことを理解した上で、一般向けサービスの開発も行って、持続可能な形にしていくことで、D&Iの実現を目指している。

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