■マイノリティーへの配慮、信頼深め、多くの商機に
LGBTに関する取り組みで国内企業をリードするのが、野村ホールディングス(HD)だ。取り組みが加速したのは、08年に米金融大手リーマン・ブラザーズの欧州・アジア部門を事業買収したのがきっかけという。
ダイバーシティ&インクルージョン推進課の大谷英子課長は「D&Iのコンセプトや社員ネットワークの仕組みはリーマンの先進的な企業文化を受け継ぎました」と明かす。
リーマンから引き継いだ「社員ネットワーク」は10年に発足した。「女性のキャリア推進」「健康・育児・介護」「LGBT・障がい者・多文化」の3分野のネットワークがある。
それぞれ約15人の企画メンバーが業務とは別にボランティアで活動。ランチタイムなどに集まってアイデアを練り、それぞれ情報発信や啓発イベントを企画・運営し、社内のD&I推進を支える原動力になっている。メンバー登録は2千人を超えるという。
中でもLGBTに関しては、12年に野村グループ倫理規程(現野村グループ行動規範)にLGBTへの差別禁止を明記するなど、先進的な取り組みが注目されてきた。
その背景には、13年からスタートした「アライ」の存在が大きい、という。「アライ」は同盟や支援という意味の英語「ally」が語源。非当事者を含む、性的マイノリティーへの理解を呼びかける行動を起こしている人を指す。
「アライの概念を採り入れ、非当事者も中心的役割を担うようになり、社内風土の一層の醸成につながったと聞いています」
こう話す同課の北村裕介課長代理は、ゲイであることをオープンにして働くLGBTの当事者だ。北村さんは言う。
「私自身の経験でも、矢面に立つのは非常に勇気が必要なうえ、特権的な主義主張と見られるのが改善に向けてネガティブに働くこともあります。当事者が声を上げるのも大切ですが、非当事者の立場で客観的に問題点や課題を指摘する人が増えれば理解も広がりやすいのは確かです」
LGBT支援の指針として17年に策定したのが、「トランスジェンダー対応ガイドライン」だ。
ダイバーシティ&インクルージョン推進課の大谷さんは「受け止める側は複雑で個別性が高い対応を求められます。自分らしく働くことを望む人がどの部署にいても安心して支援が受けられるよう、ガイドラインが必要だと考えました」と言う。
こうした取り組みは、ビジネスでどう強みにつなげられるのか。
大谷さんは「社員だけでなく、お客様の中にも性的マイノリティーがいることを前提にサービスを提供していくことが、ビジネスでも強みにつながる」と考えているという。
大谷さん自身、LGBT当事者に接し、「はっと」させられることが多かった。例えば保険契約の際、「受取人は奥様でよろしいでしょうか」と尋ねるのもNGだ、と気付かされた。パートナーと言えば「夫婦」と思い込み、同性のカップルである可能性に考えが及ばなかった。大谷さんはそう振り返り、こんな展望も示した。
「社内のあらゆるマイノリティーに配慮する意識が醸成されれば、社外での振る舞いや所作にもおのずと波及し、お客様との信頼関係も深まります。そうなれば、より多くのビジネスマッチングの機会に出合えるはずです」
(編集部・渡辺豪)
※AERA 2022年4月25日号