いうまでもなく、論争の前提は「電気がないと不便」「豊かさが失われる」ということであろう。これは太陽が東から昇ることと同じくらい当然と思われている。ゆえに私も、正義のために頑張って耐えている人と思われているらしく、「まだ節電生活続けてるんですか……」と、どこぞの聖人か珍獣でも見るような目で100万回聞かれ続けている。
でも実態はその真逆で、私は今の生活を始めてから生活の質が劇的に好転した。家事は楽しくラクになり、有り余る時間で好きなことが自由にできる至福。便利に頼らず人に頼れば友達も増える。全ては「電気を使わない」ことで転がり込んできたという不思議に、自分が一番ビックリしている。
物事には「適量」ってものがあったのだ。何かを得れば何かを失う。多いほど良いというのは全くの幻想だった。そう気づく人が増えるだけで案外社会問題の多くは解決するのかも。少なくとも私の人生の諸問題は全部解決した。
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
※AERA 2022年4月25日号