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 作家・コラムニスト、亀和田武氏が数ある雑誌の中から気になる一冊を取り上げる「マガジンの虎」。今回は「文藝春秋」。

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 創刊100周年を迎えた「文藝春秋」8月号は巻頭で<日本左翼100年の総括>と題した池上彰と佐藤優の対談に大きく頁を割いている。日本共産党がこの夏に結党100周年を迎えたことに連動させた企画か。

 佐藤優は、新型コロナによる貧困や格差の拡大で「近い将来、左翼勢力が再び台頭する時代が来る可能性があると、私は予想しています」と語る。共産党が「もう一度“平和の党”だと偽装する」ことで、同調者を増やしてもおかしくない、と。それは過大評価ではありませんか、佐藤さん。

 共産党に始まる日本左翼の流れは、いま消滅に瀕している。これが私の理解だ。議会内政党としても極小派だが、社会的な存在感と文化的発信力が、ほぼゼロに近いことが致命的だ。

 左翼の黒歴史にも言及されているが、批判の角度がズレている。戦前の指導部による雪崩を打った転向と、非転向を貫いた宮本顕治らの党内リンチ事件。戦後の渡邉恒雄や堤清二、さらには不破哲三たちに焦点を当てた記述だと、所詮は共産党の東大細胞トップのエリート臭しか伝わってこない。

 60年安保を牽引したブント(共産主義者同盟)の魅力は、そんな前衛党神話をブチ壊したことに由来する。理論は日共・東大細胞の青木昌彦らが用意したが、膨大な数の“赤いカミナリ族”と呼ばれた戦闘的部隊は一流に非ざる私大生と、巨大労組とは無縁な青年労働者だ。

 民主的な教授と学生が仲良く腕を組み、国会前へデモに行った60年安保。それに対して60年代末の全共闘は、民主的な教官の欺瞞を糾弾した。

 革命の僅かな可能性は、既成左翼ではなく、フランスの黄色いベスト運動や、香港の雨傘革命といった未組織のアナーキーな運動にしかないように思うのだが。

週刊朝日  2022年8月5日号