芙美(小林聡美)は草笛を吹く吾郎(松重豊)と出会う。大人の人生にそっと寄り添う物語。4月29日から全国公開 (c) 2022「ツユクサ」製作委員会

40歳過ぎたらラク

小林:それにこの年齢になると恋愛に対しても変に意識することがなくなってラクになってはきますよね。恋愛に限らず、昔は感情に振り回されて落ち込んだり、実体のない責任感で潰れそうになったりすることもあったけど、40歳半ば過ぎくらいからかな、世の中の人はこちらのことなんてそんなに気にしてないよ、って思えるようになった。

松重:僕も40歳くらいからお寺に行って座ったりするようになったんです。宗教、というよりも仏教には哲学や生き方として学ぶことが多い。俳優としても謙虚に、未経験の分野やジャンルに臆病にならずにやらないといけないなと。

小林:私はいま仕事で新しいことをするのと、生活のなかで新しいことをするのが同じレベルの楽しみになってきていて。

松重:まさにそれですよ。昨日も有名なお坊さんと「日常が全て仕事に反映してくる」とお話ししていたんです。部屋をきちんと片付けるとか、部屋にがたたずんでいる景色に心がやすらぐとか、そうしたすべてが「その人」になる。どこかひとつでなく、すべてを磨いてないと、ってことだと思うんですよね。

――ともに「猫好き」として知られる。小林さんは4代目となる12歳の猫と暮らし、松重さんは猫歴7年だ。

松重:猫って人生そのもののような気がしますねえ。こうしてあげたからこれが返ってくるだろう、という現世利益には絶対ならない。こういうふうにしてほしい、と思っても裏切られるし。まあそれが人生だなって。うちは犬もいて、犬は応えてくれるから全然違う。

小林:ほかの人には触らせないけれど私にだけは触らせる、みたいな信頼関係だけでつながっている感じですね。

松重:うちの猫は信頼すらも怪しいな。「ごろにゃん」と寄って来たかと思えば「なにすんの?」って顔されたり(笑)。

小林:うちも5歳くらいまではそんな感じでした。年月を経ると信頼関係が築けるかも。

松重:そういうものですか。

小林:なにより多くのなかからうちを選んで来てくれたことこそが奇跡ですよね。

松重:そうそう。奇跡が家でゴロゴロしているのをみて「これってオレ、すごくいい状態?」って思います(笑)。

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