「全ての医療機関がコロナ優先になってしまったら、心臓病などコロナ以外の病気を持つ人の治療ができなくなってしまいます。そちらの医療を担う役割も必要であったと思います」(桃原哲也医師)
一方で、コロナ禍では患者の受診控えもみられた。最も顕著だったのは、クリニックからの紹介患者の減少だ。心臓病でも、軽症で自覚症状がそれほどない患者は、まずかかりつけのクリニックを受診しなくなった。それにより、必然的に紹介患者も減り、従来の半分程度にまで減少した。
しかしその結果、病状が悪化した患者もいたという。典型例では、胸が痛かったものの感染を心配して受診せず、心筋梗塞(こうそく)になって救急搬送され、緊急手術となったケース。「軽症で、通院治療でもいけるかもしれないが、できれば入院したほうがいい」という患者は、ちょっと治療が遅れることで悪化してしまうこともあるという。
ただ、紹介患者が減少したのは2020年4~5月の一時期だけで、その後は戻った。
「心臓病は怖い病気で、がまんできないほど強く胸が痛むこともあります。その場合は救急車で搬送されますが、長くは待てない病気であることも、手術数が減らない理由のひとつだと思います」(同)
「川崎心臓病センターは、心臓病に関わる医療の最後の砦(とりで)として、地域で、あるいは関東において、『あそこに行けば絶対断られず、手術してもらえる』といわれるチームを目指してきました。たとえコロナ禍でもそれは変わりません」(同)
もちろん、感染対策は徹底してきた。ERは2階にあるが、陽性者もしくは疑いのある人は3階以上の病棟には上げないようにし、職員の防護具着用の徹底、ゾーニング、全ての入院患者へのPCR検査や生活歴の確認など、院内に感染者を入れないための対策は全ての医師、スタッフで徹底するという意識を共有していたという。
入院後に患者が陽性になるケースは、デルタ株のうちはなかった。オミクロン株の出現以降は何人かの陽性者が出たが、乗り切ることができた。