すでに来季へ向け始動している宇野昌磨(写真提供・プリンスアイスワールド)
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 黒のスーツを着込んだ宇野昌磨が滑る『Gravity』には、世界王者らしい成熟した雰囲気が漂っていた。

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 4月29日「プリンスアイスワールド2022-2023 Brand New StoryIII 横浜公演」初回で宇野が滑ったのは、来季のショートプログラムだった。「つい先日までスイス合宿に参加していて、その場でステファン・ランビエールコーチに作っていただきました」と宇野が説明するこのショートは、アメリカのギタリスト、ジョン・メイヤーによる『Gravity』を使用している。ゆったりと流れていく『Gravity』は大人の男性をイメージさせる曲で、ベテランの域に入りつつある宇野にふさわしい。

 宇野は「まだ作り立てなので、あまりこのプログラムについて深く何も聞いていない」としながら、自分が感じるところを述べている。

「曲調の強いところと弱いところが、ちゃんと音楽として明確に分かれている部分なのかなと思うので、そういった部分を表現出来たらなと思っています」

「昨年もプリンスアイスワールドに出演させていただき、そこでは『ボレロ』を滑っていました」と宇野は振り返る。

「当初はまったくできていない状態のお披露目ではあったと思うんですけれども、そこで何公演も挑戦することによって、間違いなくこのプリンスアイスワールドの期間中に得たものがたくさんあったと思います」

 振付を手がけたランビエールコーチの宇野への期待がつまった今季のフリー『ボレロ』は、4種類5本の4回転を跳んだ後に激しいステップを踏んでいく、難しいプログラムだった。確かに昨年のプリンスアイスワールドでは最後のステップまで体力が続かないようにも見受けられたが、宇野はシーズンオフから逃げることなく『ボレロ』に取り組み続けた。シーズンに入っても継続してプログラムを磨き続けた結果が、優勝した世界選手権での最後のステップまで力強く滑り切る『ボレロ』だった。

『Gravity』の最後にも、『ボレロ』同様スプリットジャンプが組み込まれた華麗でハードなステップがある。昨年のプリンスアイスワールドで『ボレロ』のスプリットジャンプを着氷した宇野は一瞬うずくまるような姿勢になっており、そのハードさがうかがわれた。対して今年のプリンスアイスワールドではそのスプリットジャンプを軽々と決めているところに、宇野の成長が感じられる。しかし『Gravity』では、スプリットジャンプの着氷後に続けてバレエジャンプも跳ぶという、さらにハードな振付になっていた。

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