AERA 2022年5月16日号より
AERA 2022年5月16日号より

■恋愛だと思わされた学校で“呪い”の原体験

 権力によって「あったこと」を「なかったこと」に封じ込めようとする磁場は、身近に存在する。

「魂の殺人」とも言われる性暴力は、男性中心で作られてきたメディアの報道などでも犯行の異常性や非日常性が強調されがちだが、日常と隣り合わせだ。

 内閣府が全国の20歳以上の男女を対象に2020年に行った「男女間における暴力に関する調査」によると、無理やりに性交等をされた被害経験者は24人に1人(女性は14人に1人)。その加害者が「全く知らない人」と答えた割合は約1割にとどまった。その3年前の前回調査でも同様の傾向で、9割近い加害者は知人ということを示している。同じ調査では、6割の人が被害について「だれ(どこ)にも相談しなかった」と回答した。

 被害を受けても声を上げることすらできない。そうした無力感を植え付けられる原体験の一つが学校ではないだろうか。

 小学校時代に担任の教師から被害を受けた女性は「先生に『嫌だ』と言っていいとか、大人に相談していいとか、教えられていなかったので、どうしたらいいかわからなかった」と語る。中学時代の教師からキスをされたり、胸を触られたりした女性は「先生が言うことを疑うことはできないし、恋愛だと思わされてきた」と振り返った。

 まるで「呪い」をかけられたような子どもたちは被害者性を奪われていく。声を上げようとしても、「あなたも(加害者に)隙を与えちゃいけない」といった教えで口をつぐまれていった。学校で信頼の厚い先生が繰り返す性暴力との闘いを描いた漫画『言えないことをしたのは誰?』(さいきまこ作)は、被害を口にしにくい学校の構造について「根底にあるのは、教師と生徒の間にある『権力関係』」と指摘した。(朝日新聞記者・南彰)

AERA 2022年5月16日号より抜粋