AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
【写真】小泉悠さんの著書『ロシア点描 まちかどから見るプーチン帝国の素顔』はこちら
『ロシア点描 まちかどから見るプーチン帝国の素顔』は、小泉悠さんの著書。ロシアがウクライナへ軍事侵攻し、激しい戦争が続く中で執筆されたという本書。ロシアに暮らす人々、住まい、地下空間が広がる都市、食生活など、「衣食住」の視点からロシアとロシア人の魅力を紹介する。同時に、「大国」ロシアの国際関係からプーチン大統領の秩序観を読み解く。あらためて「ロシアとはなにか」を考えるために読むべき本だ。小泉さんに同書にかける思いを聞いた。
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「戦争を考えるとき、巨大な戦争をする機械同士がぶつかっているかのようにイメージしがちです。けれど、その中にいるのは生身の人間ですよね。国家は『生身の人間がいる』事実をなるべく隠して、罪悪感を薄めようとしますが、実際には血を流す人がいるし、戦争マシンを動かしている人々の責任もある。私はどちらかというと、国を戦争マシンとして考えるのが本業なのですが、少し解像度を変えて中にいる人々を見てみる必要もあるんじゃないか──と、この本を書いてみて、あらためて思いました」
そう語る小泉悠さん(40)の専門はロシアの軍事・安全保障政策だ。ロシアのウクライナへの軍事侵攻が始まってから、テレビで小泉さんの解説を聞いた人も多いだろう。データを読み解きながら語る小泉さんのファンは多く、SNSのフォロワーは16万人を超えている。だが、『ロシア点描』ではロシアの街や食、人々のふるまいなど素顔のロシアも紹介した。
「実は本の校正が出た段階で、戦争が始まってしまいました。語りおろしをまとめてもらったのですが、結果的に枠組みを残して全面的に書きなおすことにしたんです」
世界中がウクライナの行方を見守る中で、小泉さんは本書を書いた。市民を攻撃するロシア軍を見ていると、「はたして今、ロシアを紹介する本を出すべきなのか」と逡巡(しゅうじゅん)することもあったという。