作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。
* * *
つい先日のこと。友人から「大寝坊して仕事のイベントに大遅刻してしまった! いま現地に向かっているところ」とLINEがきました。
おお、それは大変。私も遅れてはならない場面で大遅刻をやらかしたばかりだったので、彼のいたたまれない気持ちはよくわかります。
彼がこの日のために一生懸命取り組んでいたのは知っているし、最近は準備で寝不足続きだったのも知っているし、遅刻は彼の不徳の致すところながら、なんとか挽回できるといいなと祈るような気持ち。いまは急いで行く以外にやれることがないのもつらいよね。わかるよ。
友人が現地に到着するまでやりとりを続けていたところ、彼から「仕事先の相手が静かに怒っている」とLINEが。ううう、いまは、平謝りするしかないね。ところでなんて怒っているの?と、何の気なしに尋ねてびっくり。相手の第一声が「何時になりますか?」、次が「イベントが始まってしまいました」だったと言うのです。そのあとも「あと何分ですか?」や、彼の遅刻のせいで実害が出ていることを暗に責めるような短文ばかり。
私は彼に言いました。遅刻は謝るとして、もうこの人と仕事しないほうがいいよ、と。
彼がやらかしたのは大遅刻です。ならば、第一声は「大丈夫ですか?」だと思うのです。予定の時間を大幅に過ぎても現れないのは事故に巻き込まれたからではないか、病気で倒れているのではないか、そういう心配が先にくるもの。連絡がついた暁には、第一声が「あーよかった」になるだろうし、「気を付けてきてくださいね」と続くはず。相手から、そういう言葉はひとつもなかったそうです。
連絡を寄こしてきた相手はプロジェクトのリーダーではあるものの、友人は部下でもなんでもなく対等な立場。いや、部下だとしてもこれはない。これまで友人は遅刻をしたこともなく、成功に大きく貢献しています。迷惑を掛けたことは事実としても、こんな扱いをされる謂れはないのです。相手は自分のことしか考えてない人に違いない。
なんてことないやり取りながら、こういう細部に人間性が出ます。聞けば、近ごろは自分の扱いに違和感を持つことが増えてきたのだとか。
ヒューマンエラーは誰でもやるもの。だからこそ寛容でありたいものです。遅刻はダメだけどね(自戒の念)。
※AERA 2022年5月16日号