事件の現場となった近鉄大和西大寺駅前。多くの人が訪れた献花台は7月19日に撤去され、多くの車や人が行き交う
事件の現場となった近鉄大和西大寺駅前。多くの人が訪れた献花台は7月19日に撤去され、多くの車や人が行き交う
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 2022年7月8日。安倍晋三元首相が凶弾に倒れた。にわかには信じられない。そんな状況のなか、手製の銃、旧統一教会と自民党、国葬など、さまざまな情報が流れていく。私たちはこの事件をどう捉えればいいのか。外交ジャーナリスト・手嶋龍一さんに聞いた。AERA 2022年8月1日号から。

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「安倍総理は、ドナルド・トランプという気まぐれな大統領を巧みに操ることに世界で最も成功した指導者だった。(中略)トランプをさりげなく宥(なだ)め、おだて、あるべき政策に誘導した」

 ワシントン・ポストのコラムニスト、イグネシャスは、安倍総理の突然の辞任表明を受けてこう書いています。外交記者としてホワイトハウスを取材してきた私の分析とも重なります。

「アメリカ・ファースト」を掲げ米国の利益を剥き出しに追求するトランプが大統領となり、米欧の同盟関係は深刻な打撃を被りました。欧州には戦略的な空白が生じ、ロシアによるウクライナ侵攻の遠因になった。

 一方で安倍総理はトランプという異形の大統領の懐(ふところ)深くに飛び込み、東アジアには戦略上の隙を生じさせなかった。力を背景にした中国の攻勢を何とか封じることができたのでした。欧米はそんな安倍外交の手腕を評価したのです。

 安倍氏がトランプの気持ちを鷲掴みにしたのは、トランプ政権の発足前、16年11月。大統領選に勝利した直後の機を狙って、安倍氏はニューヨークに飛び、トランプタワーを電撃訪問して会談したのです。まだ正式な指名も受けていない次期大統領が主要国の首脳と会談するなど異例のことです。安倍氏はそれを承知でトランプを訪ね、個人的な絆をいち早く築いたのでした。この会談は機微に触れ秘の部分も多く、その後の東アジア政局を考えればきわめて重要です。安倍氏はトランプを前にメルケル氏ら各国首脳の人となりまで詳しく語って聞かせました。

 安倍・トランプの信頼関係は現実の外交にも力を発揮していきます。18年6月、歴史的な米朝首脳会談はシンガポールで実現したのですが、トランプは当初、板門店の開催に執着していた。それを危惧(きぐ)した米政府高官が、日米首脳の電話会談を前に日本側に慌てて連絡してきました。第三国での開催こそ、アメリカと同盟国の国益になり、安倍氏にシンガポールでの開催を大統領に説得してほしいと異例の要請があり、結果はまさしくそうなりました。

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