■戦争終わらせられるか
一方、安倍政権の悲願だった北方領土交渉は頓挫(とんざ)して終わった。対中外交も、17年に訪中した二階俊博自民党幹事長に「一帯一路を支持する」という総理親書を託してしまった。それまで日本政府は、習近平政権の「一帯一路」構想に賛否を明らかにしていませんでした。しかし、北京の強硬な求めに屈して支持を表明してしまい、対中外交に躓(つまず)きの石となったのです。
北方領土交渉も対ロ交渉の挫折も、安倍官邸の内部で渦巻く路線対立が関わっています。安倍氏は、官邸内部に対立、抗争があると知りながら、対外戦略に影響を及ぼす内部の対立を自ら裁こうとしなかったのです。
外交は内政の延長ですから、やがて歴史の審判を受けなければならないでしょう。ここに安倍外交の“光と影”があったのです。ただ、その功罪を含めて「安倍外交」と呼ぶことができる。国際政局には次々に新たな布石が打たれた。その後の菅政権、岸田現政権には独自の外交戦略と呼べるものは見当たりません。
この秋には安倍氏の国葬が行われます。ウクライナでの戦いが続くなか、東京は重要な弔問外交の舞台となるはずです。安倍氏はバイデン、プーチン両氏とも密接な関係を築きあげていた稀有(けう)な政治指導者です。本誌でも以前触れましたが、安倍氏はロシアとウクライナを仲介できる可能性があると戦争の当初から指摘してきました。
岸田政権には、安倍氏の遺志を継いで、この機会をウクライナでの悲惨な戦争を終わらせるために役立ててほしいと思います。“死せる安倍氏、ウクライナ・ロシアを停戦に走らす”、そう願ってやみません。
(構成/編集部・川口穣)
※AERA 2022年8月1日号