落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「占い」。
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子供の頃。あれは真夏だったか。夕食前に逸見政孝・幸田シャーミンのお二人がキャスターをつとめるニュース番組『スーパータイム』を家族で観ていた。その日の特集コーナーでは全国の変わり種占師を紹介していた。
「これ、○○ちゃんじゃないか?」と父が画面を指さした。インドのサリーのような衣装を纏(まと)って『ペット占師』として現れた小太りの男。「だれ?」「お前のイトコの○○ちゃん」。その占師は父の兄の息子だった。私とは年の離れた、一度も会ったことがないイトコ。「なにやってんだ」。父は呆れたように言った。○○ちゃんは水晶玉越しに依頼者の飼い猫を凝視し、そのうちに「この子の未来は……うん!! ハッピーっ!!!」と叫ぶ。驚いたネコがサリー姿のイトコを「フーーッ!」と威嚇する。睨み合うネコとイトコ。父は黙ってチャンネルを変え、その晩、我々家族は沈黙のままカレーを食べた。
占いが好きな噺家の先輩がいた。真打ちになってから廃業したS兄さん。兄さんはインドと日本のクォーター。眉唾だが、色黒で彫りが深かった。S兄さんは風呂が嫌いだった。インドの人はあんなに沐浴してるのに、兄さんは滅多に風呂に入らなかった。「Sはとにかく占いが当たるらしい。なぜならインド人のクォーターだから!」と寄席の楽屋で、雑な評判になっていたS兄さん。またS兄さんの占い自体も雑だったが、神妙なクォーターフェイスで言い放つので説得力がある。
「オレはこの先、落語家としてどうなるだろう?」と尋ねたベテラン師匠に「……安心してください。師匠は今がピーク」と笑顔で応えて、ベテラン師匠を不安のどん底に叩き落としたり、「兄さんは長生きの相が出てますよ」と先輩に告げ「ホント? 何歳まで生きられるかな?」と喜ばせておいて「……63ですね」と現代ではとても長命とは言えない数字を真顔で提示し、その先輩を怒らせたりと……愉快な占いライフを送っていたS兄さん。