イラスト/もりいくすお
イラスト/もりいくすお

 浅草演芸ホールでのS兄さんの真打ち披露。私は楽屋にお手伝いに伺った。そんなに付き合いの広くない兄さん。案の定、お手伝いの数は足らずてんてこまいで働いた。終演後、S兄さんは「今日はありがとう。打ち上げ、ファミレスでもどう?」と誘ってくれた。普通、真打ち披露の打ち上げは焼き肉屋などでやるのだが、下戸で庶民派クォーターの打ち上げはパフェとドリンクバーだった。

 3杯目のメロンソーダを飲み干すとS兄さんは「今日の御礼に一之輔の前世、見てあげようか?」と言う。「兄さん、前世がわかるんですか!?」「まぁね」。自信満々だ。「いろんな人の前世見てきたよ。○○師匠は『九官鳥』。△△師匠は『イルカ』、それも賢いイルカ。××は『ビフィズス菌』」「ビフィズス菌!?……菌ですか!」「身体にいいんだよ」「知ってます」「一之輔はね……『家畜』だ」「『家畜』?……の何ですか?」「『家畜全般』」。風呂嫌いの兄さんからは常に家畜の臭いがしていたのだが、その人から『全般』の太鼓判を押された。

 前世は『家畜全般』。現世は『噺家』。大出世だ。S兄さん、今なにやってんだろう。

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめたエッセー集の第1弾『いちのすけのまくら』(朝日文庫、850円)が絶賛発売中。ぜひ!

週刊朝日  2022年5月20日号

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