「先生に『どういう男の人を好きになるんですか?』と聞いたことがあるのですが、男の“くぼみ”を見つけるとそれを埋めたくなるらしいです。先生は自分で稼ぎがあったし恋愛も自由でしょう? だから男を物心両面で面倒を見ることができたんです。くぼみが埋まると興味がなくなるらしいですが(笑)」
ハッパをかけられることも、しょっちゅうあったという。
「僕は離婚して以来ずっと独身なので、いつも心配されていました。何度も『死ぬまで私を撮影して生活の足しにしなさい』『あなたが生きていけるように私を利用しなさい』とおっしゃっていただき、継続してカメラを構えるようになりました」
■「ボケたのか」と号泣
大掛かりな撮影隊で寂庵を訪ねるわけではない。年に5~6回、ふらりとアポをとって一人で出かける。公式の場では法衣姿の瀬戸内さんも、中村さんが訪ねる時はTシャツやセーター姿だ。寂庵で年越しをしたことも何度かある。
その時は寂庵のスタッフも休暇を取っているので2人だけ。おせちやお屠蘇(とそ)が用意された部屋で、いろいろな話をした。寂庵には送られてくる上等な酒がたくさんあったが、その多くが中村さんの腹に収まった。
「よそでは言えない話もたくさん伺いました。また先生は『ナチュラルボーン・インタビュアー』ですから、僕も洗いざらい自分のことを話しています」
オンライン会議システムZoom(ズーム)での取材がうまくいかず、「私はボケたのか」と号泣する姿もある。瀬戸内さんがあんな風に泣くのかとショックだった。
いつも明るくにぎやかで率直だった人が抱えている業の深さ。それはかねがね「作家として書き続けることだけが自分に残った欲望」と言っていた人の、老いに対する恐怖心が見えた瞬間だった。
「NHKからはまた番組にしたらと言っていただきましたが、僕としては同じようなものを作るのはつらい。そんな時に100歳の節目に映画という形にしてはというお話があったのです」