菊地武顕
■T－REXは王座を守れるか
最後に、今作の目玉というべき肉食恐竜のギガノトサウルスについて。ティラノサウルスよりも大きいといわれ、映画では両者の対決が期待されているが、実は恐竜通の間では、「盛り」疑惑がささやかれている。
「頭骨が完全な状態では出ていないんです。真ん中がごっそり欠けている状態の化石でした。最初の論文には、頭は145センチから150センチで、ティラノサウルスと同じくらいと書かれていました。でもなぜか全身骨格が組み上がったら、頭骨が30センチほど大きくなっていたんです。人間でいうと、目の下を不自然に伸ばしたような感じ。それに合わせて体全体も無理やり大きくしたので、肩や腰の骨の大きさが足りていない。まるで魚みたいな奇妙なプロポーションになっていました」
発見者側が「最大」とアピールしたいと考えたのだろう。人間の欲望を反映させられてしまったのだ。
果たしてティラノサウルスと闘ったらどちらが強い？
「映画とは関係なしに、前からよく出てくる話題ですよね。ティラノサウルスはやたら骨格が頑丈で筋肉質です。筋肉量は段違い。まるで別格です。両者の体長が同じくらいでも、体重はティラノサウルスのほうがずっと重いわけですから」
と恐竜くんは語りつつも、強いだの怖いだのというまるで怪獣的な部分にだけ着目することには、異を唱える。
「恐竜はかつてこの地球に実在した生き物。あくまでも動物なので、ユーモラスな表情をしたり、愛らしさやドジな一面もあったでしょう。鳥に近いわけですから、ティラノサウルスも首を傾げたりしていたかもしれません。最近は日本でも、化石がどんどん発掘されています。彼らがどんな風景のなか、どう生きていたのか。それを想像するのも楽しいのではないでしょうか」
（本誌・菊地武顕）
※週刊朝日 2022年8月5日号
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