古今東西、戦場では「川」を巡る争いが繰り広げられてきた。攻撃型ドローンや対戦車ミサイル、ジャベリンなど、最新兵器が注目されることが多いウクライナの戦場でも、それは変わらない。いま東部ドンバス地方ではドネツ川を挟んだ激戦が続いている。川を巡る攻防戦に詳しい防衛省防衛研究所・戦史研究センター長の石津朋之さんに聞いた。
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5月12日にウクライナ国防省が公表した写真は衝撃的だった。
上空からの映像には川が流れ、その周辺には焼け焦げたロシア軍の戦闘車両が多数確認できる。川に架けられた浮き橋は破壊されて沈み、対岸に上陸したロシア軍の戦車や装甲車両は引き返すこともできず、川岸に追い詰められたようにかたまった状態で撃破されている。
米政策研究機関「戦争研究所」などによると、ロシア軍がドネツ川に浮き橋を架け、ウクライナ軍が支配する対岸に進撃を開始したのは同月11日。しかし、その動きを察知していたウクライナ軍は橋の周囲に敵軍が集結したタイミングを狙って集中砲火を浴びせた。この一方的な戦いによって500人あまりのロシア兵が亡くなり、80以上の戦車や装甲車両などが破壊され、1個大隊戦術群がほぼ全滅したという。
■橋は「敵を締め上げるポイント」
石津さんによれば、戦場の川に架かる橋は「チョークポイント」であるという。
「チョーク(choke)というのは『首を締め上げて窒息させる』という意味です。要するに、橋というのは『敵を締め上げるポイント』なのです」
どのように展開した軍隊であっても、川を越える際には必ず橋を渡らなければなければならない。
「かつて、ナポレオンがロシアに遠征してモスクワ占領に失敗した際、川を渡って退却するところを集中的に狙われて敗北を喫しています。川を渡れる場所は限られていますから、それをよく知るパルチザン(民兵)にとっては格好の標的となりました。つまり、昔から軍隊というのは渡河するときがもっとも脆弱(ぜいじゃく)なのです」