
「平野レミ料理」で画像検索すると上位にヒットするのがブロッコリーレシピだ。
「まるごとブロッコリーのたらこソース」を取り上げた料理番組の画面ショットで、ネット上では『伝説』とも言われている。皿の上に立てた丸ごと1個のブロッコリーに、クリーミーなたらこソースをたっぷりかけているのだが、収録中にブロッコリーが倒れてしまった。
「NHKから相談されたのよ。ブロッコリーって小さな房に分けて、ゆでてマヨネーズで食べるしかない感じだけど、何かいいアイデアはないかって。だから小さく分けないで、ブロッコリーに敬意を表してお皿にドンって立たせてみただけよ」
大マジメである。
「ブロッコリーが倒れるとは何事かって、あとからクレームが入っちゃった。でも立ってるものがたまに倒れるのは当たり前よ。立ってるものはずっと立っているべきで、絶対に倒れちゃいけないなんて、そっちのほうが変じゃない?」
(このとき取材陣は笑いをこらえるのに必死だった――いや、笑ってしまっていた)
レミさんの人生で一番悲しかった出来事は、夫である和田さんの他界だ。
「和田さんは何でも知っているし、何を聞いても教えてくれるし、嫌なことがあれば全部解決してくれた」
「和田さんの手のひらの上で踊っていただけなのよ。自由に、好きなことをやっていたの。その手のひらがなくなったから、今はストーンと奈落の底」
「そこから、はい上がるまでの……」そう言いかけてレミさんはフッと沈んだ表情になり、「まだ、はい上がっている途中なんだけどね」と続けた。
「昔から、伴侶に先立たれた人はこんな気持ちを味わってきたのね。たくさんの人が経験することなのにね」
時折しょんぼりするレミさんの気持ちを前に向かせるのは料理だ。
「仕事を持っている人、好きなことをいっぱい持っている人の勝ちだね」
という言葉に力強さと実感がこもる。
食べることも、作ることも、レシピを紹介することも好きなレミさんだが、掃除は苦手だという。