タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
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このほどNATO加盟申請を正式決定したフィンランドのサンナ・マリン首相が来日しました。首相が若い女性であることや、連立政権5党すべての党首が女性であることが話題になりますが、マリン氏は「若い女性だから」首相になったわけではありません。人口が少なく「人こそ資源」という考え方のフィンランドでは、中高生から政治参加が盛んで、女性議員もたくさんいます。マリン首相は10代で女性大統領と女性首相の誕生を見て、自身も20歳ごろから政党の青年部で活動していました。世界経済フォーラムのグローバルジェンダーギャップ指数ランキングで、フィンランドは156カ国中第2位。かつては男性優位だった社会を長い時間をかけて変え、「選ぶべきは能力のある人で、性別や年齢は関係ない」と言えるようになったのですね。これは、女性や若者が政治家になる機会が排除されていないからこそ言えることです。
ある日本の熟年男性キャスターはインタビューの感想で「マリン首相は、女性と若者が活躍する社会は決して男性と高齢者を押し退ける社会ではなく、共に作る社会だと語っていたのが印象的でした」との旨を述べました。それだけ聞いたら「そうだそうだ、女性の権利を声高に叫んでクオータ制や女性優遇政策を導入しろというのはおかしい、男性差別だ」と思う人がいるかもしれません。しかし先述のように、フィンランドは日本の2周先を行っています。すでにジェンダーや年齢による不平等がほぼなくなった社会と、いまだに世界有数の高齢男性優位社会である日本では状況が全く違います。キャスターのコメントは、日本でそうした平等が実現されていないことには留意せずに、女性や若者の優遇を牽制(けんせい)するようにも聞こえ、疑問を感じました。まずは女性と若者に政治参加の機会を作り、制度化することが第一歩です。
◎小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。寄付サイト「ひとりじゃないよPJ」呼びかけ人。
※AERA 2022年5月30日号