イベントの進行役をフリーアナウンサーの宇賀なつみさんが務めた(撮影/写真映像部・戸嶋日菜乃)
イベントの進行役をフリーアナウンサーの宇賀なつみさんが務めた(撮影/写真映像部・戸嶋日菜乃)

宇賀 あれが無意識ってすごすぎません?

 松本 カメラで言ったら引きかアップかというのは、ちょっと考えるね。それは阿久悠さんも言ってた気がする。割に無意識にやって、後で「あっ、うまくいってるな」っていうのはある。

 Q 聖子さんの「赤いスイートピー」(82年)について「ディテールを積み上げて肝心な一言は書かない」とおっしゃっていました。

 松本 「説明をしない」ことは非常に大事で、詞に限らず小説もエッセーも脚本も、すべてに言えると思う。ディテールを積み上げていくと、感情の説明をしなくて(説明が)できる場合がある。例えば「木綿のハンカチーフ」(太田裕美、75年)の最後で「ハンカチーフ下さい」って言うだけで、彼女の意志とか、迷いから吹っ切れた感じが伝わる。

 Q 歌詞で「余白を意識している」と著書に書かれています。

 松本 余白っていらないものじゃなくて、100言いたいことがあると、10ぐらいで言うから詞なのね。90を削ってるわけじゃない。10の言葉を使って、ほかの90も同時に、言外で言う。だから、「書かない」んだけど「書いてる」んです。行間もおなじで、AとBという行があって、真ん中に空白があって、そこで何か言ってるから行間。単なる空白じゃない。それがコントロールできると、君は僕になれる(笑)。

 宇賀 次は、プロの詩人として活動する國松(絵梨)さんです。

  國松さんは文学研究科の大学院生。今年、「中原中也賞」を詩集「たましいの移動」で受賞した。

 國松 プロかどうかはわからないんですけど、聞きたいことは、締め切りとどう向き合ってるかです(会場笑)。賞を取ってから締め切りはいついつですって言われて、もうちょっと待ってほしいなってなることが結構あって。先輩からご助言ありましたら。

 松本 どんな詞でもいいんだったら書けるわけよね。ただ、自分の中に水準を作って、これより下のものは人に見せたくない水平線がある。そこから上のものしか書きたくない。そういうものを書こうとしているときに、人から与えられた時間の枠って結構、役に立つ。火事場の馬鹿力みたいに、ないものができたりすることがあるんです。

 僕はほとんど(歌入れの)スタジオを飛ばしたことがない。一番のピンチはね、千葉に「微熱少年」って映画のロケハンに行って砂浜を一日中歩かされて、帰りのバスの中、全員寝てるわけ。僕は何してるかって言うと、それから信濃町のソニーのスタジオ(当時)で松田聖子が歌を入れるのに、詞がない。詞ができてなくて、手ぶらで「やあ」とは言えないわけ(笑)。信濃町につくまで詞を書いてるわけ。何とか間に合わせて、一応プロのプライドを守った。それが締め切りってもの。そのぐらい苦労をしてからものを言えよって感じです(笑)。

 國松 失礼しました(笑)。

 (当日の模様は「三田文學」10月発売号に掲載される予定です)

週刊朝日  2022年7月29日号に加筆