母校・慶大で学生たちの質問にひとつひとつ丁寧に答えた松本隆さん(撮影/写真映像部・戸嶋日菜乃)
母校・慶大で学生たちの質問にひとつひとつ丁寧に答えた松本隆さん(撮影/写真映像部・戸嶋日菜乃)

Q 今までいろんな作曲家とタッグを組まれたと思いますが、この人は言葉を乗せるのが難しいなと感じたり、逆に自分が思った以上の言葉を引き出されたりした経験はありますか?

 松本 (詞を)つけにくかった人はあまりいなかったね。筒美京平、細野晴臣、大瀧詠一、ユーミン、吉田拓郎。その5人には安心して渡せる、いい曲がつきそうって信頼関係があった。

 Q 松本さんの歌詞は記憶、メモリーを扱うものが多いと感じています。どのようなことを心がけているのですか?

 松本 例えば「ルビーの指輪」(寺尾聰、1981年)には時制が三つある。今いる自分と、2年前、うまくいってた自分と、そこから2年後にひとりでベージュのコートを(見ると指にルビーのリングを)探してる自分と。時制が三つって普通は「禁じ手」なんです。混乱しちゃうから、複雑すぎて。でもあれは非常にうまくいった。あれだけ大ヒットしたひとつの原因だと思う。

 Q KinKi Kidsさんの「シンデレラ・クリスマス」(98年)がすごく好きです。アイドルだったり、アイドルの枠に当てはまらない、たくさんのアーティストに詞を提供するにあたって、歌詞の“色”はどう変えているのですか?

 松本 僕は歌うわけじゃないから「誰の唇を借りてるか」は非常に重要な要素で、(松田)聖子は聖子の唇とか、ああいう顔とか姿があるわけで、やっぱり気にします。

  あと、「女心がなんであんなにわかるのか」とよく言われるけど、全然わかってません(会場爆笑)。全部あてずっぽう。まあ、掘り下げていくと男も女も同じように悩んでるわけだから共通項があるんじゃないか、そこまで掘り下げると普遍的になるんじゃないかな、と考えてましたけど。

 Q 創作するうえでインプットは重要だと思いますが、一方で影響を受けすぎてオリジナリティーがなくなってしまうことがあります。自分の世界観を確立させるために気をつけることは?

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もう歌詞が出てこないなんてこと、ある?