4630万円を返金せずに逮捕された男のことは、メディアをはじめ、ネットでも誰もがまるで権利であるかのように深掘りした。簡単にできることでもあるからだろう。子ども時代の写真から、人間関係、過去の発言までありとあらゆることがさらされた。この時代、本気でさらそうと思えば、合法的に一人の人の人生をここまでさらせるのである。だからこそより不思議にもなる。いったいなぜ、11兆円の税金の使途に関わった人々のことを、深掘りしようとしないのか。詮索し、取材し、騒ぎ、「悪」を特定し、責任を追及するようなことを、メディアも、納税者もなぜもっとやらないのか。いったい、どんな自制が働いているのだろう。  

 力をもたない個の個人情報はえげつないほどさらされる一方で、巨大な組織や権力が関わることは、黒塗りされ、隠蔽されることが当たり前のようになってしまっている。5月のメディアを一色にした誤送金事件は、そんな日本の今を明らかにした。

 報道の自由の評価、日本は世界ランキング71位、先進国の中ではほぼ最下位。個人情報を検索している場合じゃない。

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