ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「女子にも嬉しい」について。
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テレビの仕事をしていると、つい「流されて」しまうことが多々あります。その場の空気や一般論的価値観も含め、いちいち「お約束事」に抗っていては、この仕事は務まりません。もちろん、自分の正義や倫理観を曲げてまで同調しようとは思いませんが、それでも普段より過剰なリアクションや表情を「見せる」ことは、テレビに出る者の大切な仕事です。
例えば、「丼からこぼれるほど具材がのった海鮮丼」とか、「肉がタワーのように積まれた豚丼」みたいな、いわゆる「映える系」のグルメが流行った時期がありましたが、正直「下品だな」「不衛生だな」と思いながら観ていました。食品の製造過程で工場の大型ミキサーで肉などを攪拌している映像も苦手です。最近やたら流行っている、人の咀嚼音をやたらと強調する傾向も、早く廃れて欲しいと思っています。
中でもいちばん葛藤があるのが「オネエ」という言葉です。「オカマ」や「ホモ」がテレビ的には自主規制を要する用語であることや、「オカマ」や「ホモ」が辿ってきた歴史や変遷も理解しています。私は比較的「オカマ」をテレビで多用するオネエタレントだと思いますが、どうしても「オカマ」と発することで番組や共演者に気まずさみたいなものを生んでしまうと感じた時は、かなり忸怩たる想いを抱えつつ「オネエ」というテレビ用語を選ぶようにしています。躊躇しながら言っているわけですから、大抵の場合その発言にはキレや勢いがなくなります。そもそも「オネエ」という言葉には破裂音や濁音がない上、3文字中2文字が母音のため、サウンド的にも強さがありません。結果、のんびり和やかな感じになり、現代のテレビ的には適した言葉なのでしょう。しかし「オカマ」という鋭利で殺伐とした語感を表現したい場合の代用品としては、あまりに与える印象が違い過ぎる。