ライトノベルは、いまや一大ジャンルだ。老いも若きも気軽にチャレンジできる表現の場であり、エンターテイメントの発信源でもある。ラノベ作家で現役医師でもある津田彷徨さんに聞いた。
■異世界でキマイラに麻酔
「誰かが頼ってきたなら、僕は治療を拒みたくない。悪人だろうと神さまだろうと何であろうと、僕は医者ですから」
そう言って主人公が緊急手術に挑むのは、ライオンの頭と山羊の胴体、ヘビの尾を持つ異形の巨大生物・キマイラだ。麻酔をかけて傷口からかえしのついた槍を抜き、傷ついた静脈から血が噴き出せば出血点を押さえて止血し、血管を結紮する。傷口の縫合時にはぺンローズ・ドレーンを置き、膿の蓄積を防止する。
異世界ファンタジーと現代医学が鮮やかに融合するこの作品は、「高度に発達した医学は魔法と区別がつかない」(講談社刊)。ライトノベル作家が原作を手掛けた漫画作品の一場面だ。 ひょんなことから異世界にトリップした主人公の総合診療医は、僅かな器具と現代医学を武器に、異世界でも臨床の道を突き進んでいく――。
ライトノベル、いわゆる「ラノベ」からアニメーションやドラマ作品が生まれることは、すっかり珍しくなくなった。特に漫画やアニメになると、かなりの原作がラノベとくくられるジャンルの作品だ。ラノベはいまや一大ジャンルだ。
■現代の文章を読む文化
この作品の作者で、医師でもある津田彷徨さんは、隆盛するラノベ文化についてこう解説する。
「2004年に開設された大手小説投稿サイト『小説家になろう』には95万作品が投稿されており、ユニークユーザーは1400万人、月間20億PVと言われています」
この数字からもこのサイトがいかに多くの読者を抱えているかがわかるだろう。若者の活字離れが指摘されて久しいが、文章や物語を読む文化は実は変わらず続いているのだ。
もちろん、現代ならではの傾向はある。
「2010年代前半の投稿は、1話あたり5千~7千字ほどの、長めの文章が主流でした。けれども、スマホが浸透した15年以降は、移動時間に読める2千~3千字ほどの投稿が主流になっています」
スマホが浸透し、通勤や通学、就寝前などの隙間時間に投稿を読む人が増えた。そのニーズに合わせるように投稿作品も変化した、と津田さんは分析する。