
小島:そうですか(笑)。それでは、今後の日本に希望はあるのでしょうか?
出井:チャンスはある。まず、69年の安田講堂事件の失敗をひきずってきたポスト全共闘世代がビジネスの最前線から引退する。彼らは失敗を恐れてリスクを取らなかったり、縄張り意識が強かったりするからね。
小島:安田講堂事件がトラウマになっているんですか!
出井:そう(笑)。次はあまり苦労を知らないバブル世代が指導者層になるけど、優秀な人もいる。楽天的な分、前よりはいいと思う。アジアの経済的発展もチャンス。中には、銀行の個人アカウントを持っていない人がいたり、水が安心して飲めなかったりする国もある。マイクロファイナンス(小規模金融)や浄水のシステムなどに対して、日本が教えられる技術はたくさんある。アジア全体の発展を考えて、新興国が必要としているものを提供していけば、日本は中心的な役割を果たせると思う。
小島:アジアの人たちは、日本という国にどんな価値を見いだしているでしょうか?
出井:安心・安全の国でしょう。70年間戦争をしてこなかったことは大きいし、水だけでなく、薬も食品もある程度の安全が担保されている。すごいことですよ。
小島:日本の技術やシステムが盗まれてしまうと恐れるのではなく、日本が持っている優れた技術やシステムを他国に教えることで、アジア全体を底上げできるなら、お互いに利益のある関係が築けますよね。
出井:そのためには、その国に行って文化や社会を理解することが必要でしょう。同じ価値観を共有して打ち解けないとね。
小島:他国の文化や社会を全部理解できなくても、どこか一部でも共感できれば、そこでつながってお互いを受け入れることができるはず。同じ価値観を共有しながら、必要とされる日本の技術やシステムを伝えることがビジネスになるなら、それに越したことはない。何だか希望が見えそうです。
(構成/編集部・大川恵実)