
ソニー(現ソニーグループ)社長を務めた出井伸之さんが2日、肝不全のため死去した。84歳だった。出井さんは、2015年9月28日号のAERAに登場、連載「小島慶子の幸複論」のなかで、エッセイストの小島慶子さんと対談し、これからの日本について何が強みになるのか、独自の分析を語っていた。
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小島:出井さんはソニーで、まさに日本の製造産業が急成長し、世界に誇れる日本ブランドが生み出されていく時代の最前線を走っていらっしゃいましたが、今の日本を、どうご覧になっていますか。
出井:まず、日本は明治維新あたりから終戦までは戦争のためのイノベーションで、戦後になってからは、車やテレビなど、民生用の商品を作ることで伸びてきました。戦後から1990年頃までが一番日本のモノづくりのいい時期だったんじゃないかな。
小島:いい学校に行って、いい会社に行けば、バラ色の未来があると信じられた時代ですね。
出井:そう。それから95年に、インターネットが完全民営化するんですが、このときすでにアメリカに後れを取っていた。ここから日本はずれ始めたと思う。日本はインターネットに注目するのが遅かったんですよ。たとえば日本のトップ企業はいまだにトヨタやホンダ、NTTなど。このほとんどの企業が、アメリカで95年以降につくられたインターネット事業の会社、つまりフェイスブックやグーグル、アマゾンなどに企業価値で抜かれてしまった。
小島:何がいけなかったのでしょうか。
出井:モノづくり国家として賞賛を浴びた過去から離れられず、新しいものを取り入れられなかったことではないでしょうか。そうこうするうちに、バブルが崩壊し、みんなが借金を返すのに必死で、変化についていけなかったのだと思う。
小島:なるほど。バブルの後片付けをしているうちに、すっかり遅れてしまったと。
出井:変化というのは急激に来る。さらに言えば、すでに次の変化の世代に入っていると思う。人工知能が人間の知能を超えるのが2045年と言われているし、スマホはスーパーコンピューター並みの機能を持つようになっていく。これからはクリエイティブな人間が価値を生み出す時代になる。日本がオリンピックを開催している暇なんてないと思うよ(笑)。