いずれのすき間についても、患者や家族に責任はない。しかし、それを埋める作業は家族が自力でやらなければならないのが現状だ。
支える制度がすき間だらけの中で、家族は何をすればよいか。
間違いなくやった方がよいのは、「学ぶ」ことと「つながる」ことだ。
■愛ではなく人権の問題、当事者の生きる権利守る
まず「学ぶ」。
その病気について基本的なことを知らずに自己流でもがき続けている家族はけっこういる。私も初めはそうだった。正しい対処法を学ばなければ、どんなに必死で支えても当事者の回復につながらないだけでなく、家族自身がまいってしまう。
アルコール依存症を例にとる。飲まないように説得する。酒を取り上げる。泥酔してできなかった仕事を代わりにやってあげる。拙著でもふれたが、これはイネイブリング(世話焼き行為)といって回復を遠のかせる行為だ。しかし、アルコール依存症という病気をよく知らなければ、ほとんどの家族がやってしまうものだ。
どんな病気かを学ぶことで、敵(本人でなく病気)の正体が見えてくる。そうなれば、回復につながるのでモチベーションが上がる。戦ううえで武器を持っているか丸腰かの違いは大きい。それは他の精神疾患でも同じだ。まずは一般向けの解説書に目を通すだけでもいい。
次いで、「つながる」。
状態が乱高下する本人に心折れることなく付き合っていくには、家族が弱音を吐き、愚痴をこぼせる場が欠かせない。病院や地域の家族会、家族同士の自助グループ、SNSなどネット上のグループには、自分と似た状況に直面する仲間がいる。一般の社会で理解されにくい悩みでも、こうした閉鎖的な場では共感を得られることが多い。語っているうちに自分自身を冷静に見つめられるようになるし、ほかの人の悩みに共感することで孤立感が薄れていく。
私も経験した。妻の症状は何も良くなっていないのに、自助グループで仲間と気持ちを分かち合うだけで、なぜか身も心も軽くなっていた。