「老後に投資なんて危ない。銀行預金に移すべき」という常識からすれば一括売却。「人生100年、老後といっても40年ある」という新常識なら分割だが、答えは。
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現役時代に増やした資産は、どこかよさそうなタイミングで一括で売るのがいいか、分割で売るのがいいか? フィンウェル研究所の野尻哲史さんに聞いた。
「iDeCo(個人型確定拠出年金)のように加入期限が決まっている場合は一括で売却するのも当然アリです。退職所得控除など税金のことを考えると、年金の形で受け取るより、一括売却で一時金として受け取ったほうが有利な場合もありますから。
iDeCoでなくても、自分なりに『今だな』と判断して一括売却して悪いことは何もありません。なんでそんなこと聞くの?(笑)」
確かに売りたいときに売っていい。当たり前の話であった。
「ただし資産をどこで売れば一番高い額になるか……そんなことは誰にもわからない。いいですか、売却は相場に合わせるのではなく自分の人生に合わせるものです」
はっとした。わかっていそうでわかっていなかったこの視点。つい相場に合わせようとしていた。
「老後資産の取り崩しは『<あなたの>必要に応じて少しずつ現金化する』というのが大原則です」
とはいえ、60歳時点で仮に2000万円まで増えた運用資産を毎月20万円ずつ取り崩したら、年間で240万円も目減りする。取り崩し中も年平均3%で運用できたとしても、10年弱で枯渇する計算になる。そのとき69~70歳、まだ生きていそうだ。
「老後の収入には3種類あります。まず年金。老後も働くことで得られる労働収入。加えて現役時代に作った資産を運用して得られる資産収入。3つの収入で退職後の生活費をカバーするわけです。
たとえば年金収入が月5万円しかないのに、60歳以降はもう働きたくないという人は、相当な資産がないと60歳から100歳までの生活費をカバーできない。
『年金は5万円です。働きたくありません。資産はありません。生活費は毎月固定で20万円くらい欲しいです』って、それはさすがに無茶な話」