AERA 2022年8月1日号より
AERA 2022年8月1日号より

羽生のペースを上回る

 これまでにもっとも多くタイトルを獲得した棋士は「史上最強」とも言われる羽生で99期。これは空前の偉業であり、途方もない大記録だ。

 しかし、「絶後」とも言い切れなくなった。藤井は10代を終えた段階で、羽生のペースを上回っている。

 藤井のタイトル9期は現時点で、歴代9位だ。羽生以下、大山康晴十五世名人(故人)、中原誠十六世名人(74)といった上の8人は、いずれも永世称号を獲得している。藤井はこの先、最短で棋聖位を5連覇すると「永世棋聖」の資格を得る。それもまた史上最年少記録だ。

「永世称号というのは、いまの段階では意識するわけではないですけれど。やはり、積み重ねていった先にそういったものが見えてくるのかな、と思いますし。今後はより一層精進して、そういうところを目指していけたらとは思っています」(藤井)

 タイトル戦初登場から一度も敗退がなく、9期連続での番勝負制覇も、過去に例がない。上記の大棋士たちであっても、存在するタイトルの大半を制して天下を取るまでには、番勝負においては何度かの挫折があった。藤井の場合にはそれすら、見当たらない。(ライター・松本博文)

AERA 2022年8月1日号より抜粋

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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