羽生のペースを上回る
これまでにもっとも多くタイトルを獲得した棋士は「史上最強」とも言われる羽生で99期。これは空前の偉業であり、途方もない大記録だ。
しかし、「絶後」とも言い切れなくなった。藤井は10代を終えた段階で、羽生のペースを上回っている。
藤井のタイトル9期は現時点で、歴代9位だ。羽生以下、大山康晴十五世名人(故人)、中原誠十六世名人(74)といった上の8人は、いずれも永世称号を獲得している。藤井はこの先、最短で棋聖位を5連覇すると「永世棋聖」の資格を得る。それもまた史上最年少記録だ。
「永世称号というのは、いまの段階では意識するわけではないですけれど。やはり、積み重ねていった先にそういったものが見えてくるのかな、と思いますし。今後はより一層精進して、そういうところを目指していけたらとは思っています」(藤井)
タイトル戦初登場から一度も敗退がなく、9期連続での番勝負制覇も、過去に例がない。上記の大棋士たちであっても、存在するタイトルの大半を制して天下を取るまでには、番勝負においては何度かの挫折があった。藤井の場合にはそれすら、見当たらない。(ライター・松本博文)
※AERA 2022年8月1日号より抜粋