藤井聡太が和服を着てタイトル戦に臨む姿はすっかりなじみ深いものになった。これほど堂々と和服を着こなす若者は、そう多くはいないだろう(代表撮影)
藤井聡太が和服を着てタイトル戦に臨む姿はすっかりなじみ深いものになった。これほど堂々と和服を着こなす若者は、そう多くはいないだろう(代表撮影)

 藤井聡太が10代最後の公式戦、棋聖戦第4局で永瀬拓矢を破り、3勝1敗で3連覇した。20代初戦の王位戦第3局も白星で2勝1敗に。今年度も変わらぬ強さを誇っている。AERA2022年8月1日号の記事を紹介する。

【図を見る】棋聖戦五番勝負 藤井聡太が3連覇

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 10代最後の対局もまた、完璧に見える勝利だった。

 藤井聡太棋聖(20)に永瀬拓矢王座(29)が挑戦する第93期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負。第4局は7月17日におこなわれ、藤井が勝利を収めた。藤井は3勝1敗2千日手(引き分け)でシリーズを制し、堂々の防衛を飾った。

 藤井は2002年7月19日生まれ。第4局を終えたあと、翌々日に迎える20歳の誕生日を前にして師匠の杉本昌隆八段(53)からはサプライズでケーキが贈られた。

「師匠からケーキをいただいたのはおそらく初めてだと思います。師匠からは毎年1月に、お正月にお年玉をいただいていたんですけど。たぶん、次からはないと思うので、その代わりに今回ケーキをいただいたのかな、と思っています」(藤井)

 そんなかわいいことを言って笑う藤井の横顔には、まだどこかあどけなさも残っているように見える。しかしこの青年はすでに10代のうちに、将棋界の歴史を知る大人が目をむいて驚くような、途方もないことをやってのけている。

 藤井自身は興味がなく、将棋ウォッチャーにとっては目が離せない、記録の話をまずしておこう。

 藤井は16年、史上最年少14歳2カ月でデビューした。20年、史上最年少17歳で初タイトルの棋聖位を獲得。以後18歳、19歳でも棋聖戦を制して3連覇を達成した。

 棋士にとって、タイトルは最高の勲章だ。長いキャリアのうちに1度でも獲得すれば将棋史に名を刻む存在になる。それを藤井は10代のうちに何度も達成した。藤井がここまで獲得したタイトルは棋聖3、王位2、叡王2、竜王1、王将1の合計9期。藤井のほか、10代でタイトルを獲得した棋士は屋敷伸之現九段(棋聖2期、50)、羽生善治現九段(竜王1期、51)の2人しかいない。藤井がいかに早熟の大天才であるかは、これらの記録が雄弁に物語っている。

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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