中高年の労働者が、正規、非正規にかかわらず相次いでリストラの対象になっている。早期・希望退職を募集する企業が赤字というわけではなく、好業績でも人員削減に踏み切る企業があるほどだ。その背景には何があるのだろうか。AERA 2022年6月20日号の記事から紹介する。
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「希望退職を募ることになりました」
その日のことを、IT関連の会社に勤めていた東京都内に住む男性(40代)は鮮明に覚えている。1月中旬、上司から会議室に呼ばれ、そう切り出された。
さらに続けて言われた。
「コロナ禍で会社の業績が悪化し事業を縮小することになったことにともない、希望退職者を募ることになったので手を挙げてくれないか」
慎重な言い回しだった。だが、退職してほしいと言っているようなものだと思った。
男性の頭の中は真っ白になった。
マンションのローン、2人の小さな子どもの生活費や教育費……。
仕事を失えば、暮らしはたちまち行き詰まる。
男性は会社を辞めるわけにはいかないと伝え、その場はいったん収まった。
しかし、その後も再三、個人面談が行われるようになった。上司はそのつど、
「残っても大変」
「考え直してはどうか」
などとじわじわ迫り、
「会社にあなたの居場所はない」
とまで言ってきた。
男性は退職を受け入れ、3月末で会社を辞めた。50歳を前に、再就職はうまくいっていないという。
「正社員でまじめに働いてきたのに、クビになるなんて。不安で眠れない」(男性)
企業の人減らしが加速している。
東京商工リサーチによれば、上場企業における早期・希望退職の募集人数(非公表企業は応募人数)は2018年に約4100人だったのが、19年には約3倍の1万1千人余に急増した。さらに20年は約1万9千人、21年は約1万6千人。2年連続で1万5千人を超えたのはITバブル崩壊後の01~03年以来だ。
早期・希望退職を募集する上場企業数も21年は84社と2年連続の80社超となり、08年のリーマン・ショック後に次ぐ水準になった。
リストラの主なターゲットは40代以上の中高年だ。LIXIL、オリンパス、東武鉄道などが40歳以上、ホンダやキーコーヒーは50代が対象となった。
業界大手による大規模な事例が目立つ。21年は日本たばこ産業の2950人を筆頭に、ホンダ(約2千人)、パナソニック(約1千人)など計5社が各1千人以上の募集に踏み切った。
業種別ではコロナ禍で影響を受けた「アパレル・繊維」が11社で最も多く、「電気機器」(10社)、観光関連を含む「サービス」(7社)と続く。これらの企業のほとんどは、直近の決算が赤字で経営が悪化していた。