行政院農業委員会がつくったポスター。デザインもしゃれているが
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 バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界を歩き、食べ、見て、聞いて悩む謎解き連載「旅をせんとや生まれけむ」。今回は、台湾の果物「アテモヤ」ついて。

【写真】日本で取れたアテモヤ

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 台湾の行政院農業委員会(日本の農林水産省にあたる)の調べでは、昨年(2021年)、台湾から日本へのパイナップルの出荷量は前年比で8倍に膨らんだ。その年の春先、害虫が混入していたことを理由に、中国が台湾からのパイナップルの輸入を禁止。台湾は日本への売り込みをはじめた。「中国の嫌がらせを受けてかわいそう」という同情感も手伝い、スーパーでは品薄になるほどの人気だった。

 背景には民主派が押さえ込まれ、一国二制度が崩壊していった香港の政情があった。次は台湾……という不安のなか、台湾をなんとか援助したいという意識が日本人のなかに生まれていた。

 その結果、台湾のパイナップル農家は、手厚い補助金制度もあり、損失は最小限に食い止められたという。

 農業経済に詳しい台湾大学の黄文弘氏はその後の動きをこう解説する。

「2021年の盛況を受け、台湾のパイナップル農家は、日本の商社と作付面積ごとに契約。コンテナを仕立て、大量に日本に輸出するルートをつくったんです」

 しかしその結果は供給過多。スーパーでは台湾パイナップルが工夫もなく積みあげられて品質も落ち、安売りスーパーで1個300円台で売られる始末。輸送時の冷蔵焼けも起き、「甘さたっぷり。芯まで食べられる」と宣伝文句にもなった芯には茶色いシミが現れ、クレーム対象にもなってしまった。

 屏東県のパイナップル農家の遊登理さんはこう話す。

「実を言うと、昨年のパイナップルは品質が安定していなかった。それでも日本では売れた。それで安心したのがいけなかった」

 昨年のパイナップルのヒットを見て、2匹目のドジョウを狙った台湾の果物がある。アテモヤである。台湾では「鳳梨釈迦」。日本人はパイナップルシャカとも呼ぶ。釈迦像の頭部のようなぶつぶつの突起がある果物だが、実はクリーミーで甘みも強い。主に台湾東部で作られている。このアテモヤも、害虫がいたという理由で中国は輸入禁止を伝えてきていた。

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シャーベット状にするとおいしいというが……