必死の練習の跡が窺えるぼろぼろの楽譜。先生の書き込みは一生の宝物です!(photo 本人提供)
必死の練習の跡が窺えるぼろぼろの楽譜。先生の書き込みは一生の宝物です!(photo 本人提供)

 だが夢心地だったのはそこまで。「先生が一緒に弾いてくれるから安心」などと考えていた自分を殴りつけたい。連弾は小学校時代に発表会で姉と弾き、さして困難を感じなかったので舐めていたが、40年以上経って取り組んだらこれがもうアータ! 自分が弾いてない音が聴こえるだけでパニックに陥り「私はどこ?」と瞬時に迷子。隣で弾くのはプロという圧も半端なく、一人の練習では弾けてたはずが超絶レベルで大崩壊。何度やってもダメ。これって……もしや「脳の老化」? つまりは克服不能なんじゃ? という恐怖に夜も眠れぬ。先生もご多忙ゆえ練習もなかなかできず、マジでやばい死ぬと地獄も極まったところでギリギリ直前の猛練習にお付き合い頂き、どうにか当日は奇跡的に最後まで弾ききることができたのであった。

 終わってしまえばまさに夢のようであった。いろいろあったが人生で起きるはずのなかった夢が確かに叶ったのである。もういつ死んでもいい。でも実際は苦難の人生がまだまだ続くのだ。人生は難しいネ。でもまあまあ楽しい。

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

AERA 2022年6月27日号

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