例えば第一話「まじめな男」では、殺人現場に遭遇して驚きのあまり転落死した男性の霊の話を聞き、第二話「初恋」では地縛霊となった女性の、愛する人にもう一度逢いたいという願いを叶えようと手を貸す。エピソードによって、ハッピーエンドを迎えるかそうでないかは異なるものの、結果的に霊たちの成仏には成功しているのだから、たとえインチキでもゴーストハンターとして凄腕だとは言えるだろう。
この連作には、主人公のユニークさ以外にも大きな特色がある。それは、ミステリーとしての仕掛けの秀逸さだ。
著者はこれまで、ホラー作家・那々木悠志郎(ななきゆうしろう)シリーズを発表してきたが、それらはホラーでありつつ、謎解きの趣向も盛り込まれていた。本書では、そのミステリーとしての面白さにさらに磨きがかかっているのだ(例えば、第一話の一件落着したかに見えた後のどんでん返しには、多くの読者が意表を衝かれるに違いない)。ゴーストハンターものというスタイルと、本格ミステリーとしての謎解きの要素との相性の良さに着目したことが、本書の完成度の高さにつながっていると言える。
助手の美幸がピンチに陥る第四話「寄り添うものたち」で最もスケールの大きな怪奇現象を描いたあとのエピローグでは、第一話から張られていた伏線が回収される。最初から読み直せば、著者が入念に仕掛けた大トリックに感嘆させられるだろう。ホラーと本格ミステリーの融合に、新たな可能性を見出した連作だ。
※週刊朝日 2022年7月29日号
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