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 ミステリー評論家・千街晶之が選んだ「今週の一冊」。今回は『贋物(がんぶつ)霊媒師 櫛備十三のうろんな除霊譚』(阿泉来堂、PHP文芸文庫 968円・税込み)。

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 ホラーの世界では、「ゴーストハンター」あるいは「オカルト探偵」と呼ばれるキャラクターがしばしば活躍する。超自然現象と思われる事件などが起きた際、オカルトに関する専門知識や霊能力などを用いて原因を解明する人物のことで、その現象が本物の怪異か、それとも人間の仕業かを判別したりもする。要するに彼らは、ミステリーに登場する名探偵のホラー版と言える存在だ。

 コナン・ドイルが生んだ名探偵シャーロック・ホームズが一世を風靡したのと同時期にも、アルジャナン・ブラックウッドの小説に登場するジョン・サイレンス、ウィリアム・ホープ・ホジスンの小説に登場するトマス・カーナッキらのゴーストハンターが活躍していた。日本の例では、小野不由美の「ゴーストハント」シリーズの渋谷一也と仲間たち、澤村伊智の『ぼぎわんが、来る』などに登場した比嘉姉妹あたりが有名だ。

 そんなゴーストハンターの歴史に、ユニークなキャラクターが新たに加わった。阿泉来堂『贋物霊媒師』に登場する櫛備十三(くしびじゅうぞう)である。

 櫛備は見たところ40代くらい、常に喪服姿でステッキを携えているという目立つ恰好で、「今世紀最強の霊媒師」と呼ばれて、マスコミにも引っぱりだこである。ところが、彼は確かに霊の姿を視たり、その声を聞いたりはできるものの、実は除霊の能力は持ち合わせておらず、助手の美幸からは、インチキ霊媒師呼ばわりされている有様なのだ。彼はそんな事実はおくびにも出さず、その場に霊がいなくても、いかにも霊が視えているかのように振る舞い、口から出任せで人々を説き伏せる術に長けている。美幸にインチキ扱いされる所以(ゆえん)である。

 こんな胡散臭い人物が果たしてゴーストハンターとして活躍できるのか、開巻早々、不安になる読者も多いだろう。だが、除霊は行えずとも、櫛備は曲がりなりにも霊の存在を認識できる能力は持っているし、人並み外れて鋭い観察力、推理力にも恵まれている。彼が霊の訴えに耳を傾け、その裏付け調査と推理を行うことで、事態は解決へと向かってゆくのだ。

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