木村花さんの事件以降もやまぬ誹謗中傷
日本でも、欧米などの議論と平行して、違法有害情報への対策は検討されてきた。
総務省の有識者会議「プラットフォームサービスに関する研究会」は2020年2月の報告書で、フェイクニュースなどの偽情報対策について、表現の自由に配慮し、「プラットフォーム事業者を始めとする民間部門における関係者による自主的な取組を基本とした対策を進めていくことが適当である」との整理をしている。
そして同年5月23日、ネット上の誹謗中傷を巡って注目を集める事件が起きる。プロレスラーの木村花さんの死亡事件だ。出演していたリアリティー番組「テラスハウス」内でのエピソードをきっかけに、木村さんへの誹謗中傷が相次いだ末の事件だったとされる。
この事件をきっかけに、プラットフォームへの誹謗中傷投稿は、改めて大きな社会問題となる。今年4月には、匿名投稿者の身元情報開示手続きを迅速化するための「改正プロバイダ責任制限法」が成立している。また、刑法の侮辱罪の厳罰化も検討中だ。
ヤフーニュースは木村さんの事件の4日後、「ユーザーのみなさまへのお願い ――コメントの投稿にあたって――」と題した声明文を発表している。今月2日の声明文と、まったく同じタイトルで、ほぼ同趣旨の内容だ。約1年半の時間を経て、ユーザーに対し、再び同じことを呼びかけなければならない状況となったわけだ。
「24時間体制のパトロール」対策を強めるヤフー
ヤフーはまた、前回の声明文公表の5日後に外部有識者会議「プラットフォームサービスの運営の在り方検討会」の設置を発表。12月にはその提言を受けて、ヤフーニュースなどへの誹謗中傷投稿に対して、削除基準の明確化やAIを使った削除の精度向上などの対策強化を打ち出している。
今年2月にヤフーが総務省の有識者会議に提出したヒアリングシートによると、ヤフーニュースのコメント欄への1カ月の書き込み数は約1300万件。利用規約違反などの外部からの指摘が16万件、このうち誹謗中傷などの「不快」を理由とした削除が1万8000件。また規約違反の指摘以前に、AIによって削除された「不快」投稿は5万8000件としている。このほかに、24時間体制で専門チームによる投稿のパトロールも実施しているという。
ヤフーは、AIの判定を基に、不適切な投稿を繰り返すユーザーに対して「乱暴な言葉づかいや他の人が傷つく内容がないか考えてみましょう」なとどする注意メッセージを表示したところ、表示対象となるアカウントは昨年8月から4カ月で13.5%減少する効果があったという。
一方で、投稿内容が刑事事件に発展する事例もある。5月には、コメント欄に大阪府高槻市議を中傷する虚偽の投稿をしたとして、同市内の30代の男性に対し、茨木簡裁が名誉毀損きそん罪で罰金10万円の略式命令を出していた、と報道されている。