東京パラリンピック最終日は9月5日、各クラスのマラソンがあり、女子の視覚障害T12で道下美里(44)が金メダルを獲得した。AERA2019年10月7日号のインタビューを紹介する(肩書、年齢は当時)。
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大粒の雨が激しい音を立てて地面をたたく。顔に降りかかる雨をものともせず、道下美里は走り続ける。144センチと小柄で、歩幅は小さく、足の回転は速い。1分間に蹴る回数は約240回にも及ぶ。一般的なピッチ走法は180回ほどだが、道下はその約1.3倍の超高速ピッチ走法を武器に、世界記録を手にした。
月に700キロ以上を走り込む。
「マラソンはまぐれがないスポーツ。後半失速しないように、距離を踏んで、足づくりをしておきたいから」
だが、道下がこの距離を達成するのは簡単なことではない。一人で走ることができないからだ。週に10~12人の市民ランナーらが仕事や家事の合間に代わる代わる伴走を務め、道下の目となる。
「一緒に走ると、まるで見えているかのように自由に走ることができて、目が見えないってことを忘れてしまうんです」
人は情報の8~9割を視覚から得ていると言われるが、レースの勝敗も情報収集が鍵を握る。路面の状態を把握するために、伴走者が自らコースの下見に走りに行くこともあったという。
「そこまでやってくれるので、私は最高のパフォーマンスで応えないといけない」
伴走者の思いも、道下の原動力だ。
東京パラリンピックのコースは終盤36キロすぎから上り坂が続く。
「私はピッチで刻むから上りは嫌いではないし、福岡でしっかり走り込んでいるから暑さにも強い。笑顔でスタートラインに立てば結果は必ずついてくる」
(編集部・深澤友紀)
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■陸上(マラソン)
東京パラリンピックのマラソンは、視覚障害(T12)の男子・女子、上肢(腕や手)切断(T46)の男子、脳性まひ以外の車いす(T54)の男子・女子の種目が行われる。視覚障害マラソンでは、ガイドロープでつながった伴走者が選手の目となり、安全を確保し、周りの状況も伝え、タイム管理も行う。5千メートル以上の種目では2人の伴走者が認められている。
※AERA2019年10月7日号に掲載