前の項で例に挙げた「すぐに」のほかにも、こんな曖昧な表現があります。
たとえば、「いい本」という表現。人によって、「読みやすくて、わかりやすい本」が「いい本」だったり、「分厚くて難解だけど、人生を変えてくれるような本」が「いい本」だったりします。
「いい会社」という表現も曖昧です。「福利厚生がしっかりしていて、上司がやさしく仕事を教えてくれて、残業もない会社」が「いい会社」という人もいるし、「仕事は厳しいけど、成長できて、自分をプロに仕上げてくれる会社」を「いい会社」という人もいる。
これらの曖昧な表現を「明確なもの」に変えるために、できる人は何をしているかというと、言葉の「定義づけ」をしています。定義づけすることで、物事を明確にして、他人との認識や価値観の違いを調整(チューニング)しているのです。
たとえば、私は、営業の研修の前には、その研修の発注担当者と、「この3時間の研修が終わったとき、受講生たちがどうなっていたら、この研修は成功ですか?」というすり合わせをします。「研修の成功」を定義づけしているわけです。
また、私は、自分の会社へ入社を希望する人には、
「ウチの会社は正直、しんどいよ。僕は、社員の成長のためならプライベートにまで口を出すし、友だちを変えなくちゃならなくなるかもしれない。ただ、入社3~5年後には、信じられないくらい成果を出せる人に成長できるから、自分の人生を変えたいと望むなら、いい会社だよ」
と最初に伝えます。これは、私が考える「いい会社」の定義を伝えているのです。
ですから、もし、入社面接で「浅川社長が考える『会社の成長』の定義を教えてください」と質問する人がいたら、「コイツ、できるな」って身を乗り出しますね。
■「数字の入った話」をする
話を曖昧なままにせず、明確なものに変えたいとき、前項の「定義づけ」とともに有効な手段が「数値化」です。
たとえば、あなたが自分の持ち家を、売りに出したいとします。
そのとき、不動産会社Aの営業パーソンは、あなたにこう言いました。
「この住宅をぜひ、私に売らせてください。私、頑張って売りますから!」
次にやってきた、不動産会社Bの営業パーソンは、あなたに「○○区における、ここ10年の不動産の動き」という資料を見せながらこう言いました。
「たぶん、このご住宅でしたら、3カ月いただければ売れると思います。今、中古物件の買い控えが出ているし、株価の変動もあるので確証はありませんが、それでよろしければ、ぜひ、私にご依頼ください」
さあ、あなたは、A社とB社の営業パーソンの、どちらに自宅の販売を託しますか?
A社の営業パーソンの熱意は買えますが、やはりどう考えても、B社の営業パーソンに依頼するのではないでしょうか。
なぜって、やはり具体的な数字が明示されているから、話に信憑性があります。