浄土宗の僧侶でメイクアップアーティスト、そしてLGBTQでもある西村宏堂(にしむら・こうどう)さんが、初の著書として『正々堂々 私が好きな私で生きていいんだ』を出版しました。
"お坊さん"としてお経を唱えるいっぽうで、メイクをしてハイヒールを履き、キラキラのイヤリングをつけて同性愛者であることを公言している西村さん。ありのままの姿に自信が持てるようになったのは、30年ちょっとの人生の中で26年が過ぎてからだといいます。それまでは「他人に笑われたり、批判されることにビクビクしながら、自分が"普通じゃない"ことに罪悪感を感じ、正直な気持ちを隠しながら生きてきた」(本書より)とのこと。
幼少期はディズニープリンセスや『美少女戦士セーラームーン』が大好きだった西村さんも、小学校に入り男女の違いがハッキリと分かれるようになってからは、本当の自分を封印するようになりました。同性愛者だと気づかれたくなくて、"友だちゼロの暗黒の高校時代"を過ごしたあとは、アメリカ留学の夢を叶えます。しかしここでもアメリカ人の友だちができず、「『日本人というルックスと文化のせいで受け入れられない』と言い聞かせることで自分をなぐさめているような状態」(本書より)だったそうです。
そんななか、西村さんはある衝撃的なニュースに出会います。それは、日本人の森 理世さんが「ミス・ユニバース2007」に優勝したニュースです。「私が受け入れられていなかったのは、日本人だからじゃない。じゃあ、なんでなの?」と考えるようになり、凝り固まっていた意識がじわじわと解放され始めたといいます。
それから西村さんの行動が変わりました。ボストンにある教会のゲイの若者向けコミュニティに参加してゲイのリアル友だちを作ったり、初めてスペインにひとり旅をしてゲイ友だちの実家に宿泊したり。このとき西村さんは、母親に堂々と「ゲイクラブに行く」と告げる友だちと、それを自然に受け止めている母親にびっくりしたといいます。
また、ボストンの短大から編入したニューヨークのパーソンズ美術大学では、学部長も学生もLGBTQであることを隠す雰囲気がいっさいなかったそうです。そうした体験を通じて、西村さんは「正直に生きている人たちに嫌と言うほど自由を見せつけられて、私がメイクすることも、同性愛者を隠さずに生きることも、何も問題ないじゃない」(本書より)と思えるようになりました。
そして、「同性愛者だと告げたら見放されるんじゃないか」との恐怖からずっと言い出せなかった両親へのカミングアウトも、ついに乗り越えられたのです。
LGBTQの悩みに限らず、他人に対して恥ずかしさや劣等感を抱き、生きづらさを抱えている人は少なくないでしょう。そんななかで、どうすれば自信を持てるようになるのでしょうか。どうすれば自分を好きになって堂々と生きられるようになるのでしょうか。西村さんの生き方や考え方が余すところなく綴られた本書には、そのヒントがたくさん詰まっています。
「自分のハンドルは自分で握る。いつの間にか顔も見えない価値観にあなたの人生のハンドルを握られてしまっていないかしら?」
「物事は、光の当て方次第で姿を変える。そのライトを持っているのは、自分。不満ばかりにライトを向ける自分のままでは、どんな場所に行っても同じにならない?」
「ユニークな個性があるからこそ新しい希望や可能性が生まれる。それぞれの人がそれぞれの色で輝いてこそ、この世の中はより鮮やかで美しい」(本書より)
西村さんの言葉にハッとさせられる人も多いはず。自分の好きな自分で堂々と生きたい――。本書は、そう願うすべての人の背中をそっと押してくれる一冊になるでしょう。
[文・鷺ノ宮やよい]